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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

レッドムーン・ショック スプートニクと宇宙時代のはじまり

表紙写真

  • マシュー・ブレジンスキー 著/野中香方子 訳
  • 日本放送出版協会
  • 四六判、453ページ
  • ISBN 978-4-14-081334-8
  • 価格 2,625円

まず、本書は宇宙開発の関係者、関心を持つ全ての方に何としてもお読み頂きたい重要な資料だ。まさに手に汗握るドラマよりドラマチックなノンフィクション。よくもまあ、鉄壁に囲まれたクレムリンや、ホワイトハウスの執務室を暴くことができるものだと思ったら、著者の履歴と名前を見て納得した。

著者のマシュー・ブレジンスキー氏は元ウォール・ストリート・ジャーナルのモスクワ特派員であり、カーター大統領元外交特別補佐官でオバマ現大統領外交ブレーンのズビグネフ・ブレジンスキー氏の甥だという。よって、ロシア語に堪能であると共に、米国知識層の代表者なのだ。本書を読むと、ロケット開発を中心に科学技術についても相当な知識を持っていることが、よく理解できる。

だが、本書一番の特徴は、フルシチョフやコロリョフなどソ連側と、アイゼンハワーやフォン・ブラウン、メダリスなど米国側の登場人物の、実に的確な人物分析にある。歴史は人で動くといわれるが、まさにその通り!

相次ぐミサイルや原水爆開発の遅れとポーランドやハンガリー動乱などの民族紛争で政治的な窮地に陥っていたフルシチョフが、まさに千載一遇で人類初の人工衛星スプートニク1号2号の成功により救われたことや、ヴァンガードの打ち上げ失敗で支持率の急落に見舞われたアイゼンハワーや副大統領ニクソン、対立党で大統領の座を狙うジョンソンなどの心理を鮮やかな筆致で描くと共に、米ソ衛星の勇、コロリョフとフォン・ブラウンの行動が実にわかりやすく描写されているのである。

評者は本書をドキドキしながら読み耽った。本当に面白い、と同時に、ことによったら原爆をナチス・ドイツが製造しなかったのも第三次世界大戦が避けられたのも、宇宙開発があったからかも知れないと感じさせる。莫大な費用がかかるとはいえ、宇宙開発は人類共通の「夢」なのだ。人々が夢を共有できたからこそ、ソ連も米国も面子を捨てて共存の道へと進めたのだ。だが、これまでの宇宙開発が軍備拡張競争によっていることも事実である。軍事には文民統制が重要であり、政治には理想と現実を直視する目が必要なので、本書は政治家諸氏にもぜひお読みいただきたい本である。

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