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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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146(2017年4〜5月)

2017年11月4日発売「星ナビ」2017年12月号に掲載

こぎつね座の矮新星=PNV J20422233+2712111

先月号からの続き]2017年4月14日早朝に4名の方々から、それぞれ独立して、こぎつね座に出現した新星状天体(PN)の発見が報告されます。『4名もの捜索者から同一発見の報告があった。これは、きっと、新星だろう……』と思いながら処理しました。

その日(4月14日)、先月号で紹介した08時42分の水戸の櫻井幸夫氏からの返信が届いたあと、11時21分には、山形の板垣公一氏から「こぎつね座の増光天体が写った今朝の私の画像です。180mmレンズで撮影した捜索画像です。位置と光度は、2枚をコンポジットして測定しました。この星は、4月14日02時05分には11.8等でした。私は、星表を調べて、5等級以上、増光していないと発見は報告しません。どうも、ほとんどの場合、星表にある星が増光するのではないような気がしています。なお、1日前の4月13日01時59分には、13.2等より暗く写っていません」という報告があります。

さらに、その夜の21時33分には、山口の吉本勝己氏から「未確認天体確認ページ(TOCP)に掲載されているこの星を米国メイヒルにある25cm望遠鏡で4月14日20時05分に観測しました。天体は確実にあります。かなり青い星です。カラー合成した画像を見てください」という報告も届きます。板垣氏と吉本氏の観測は、4月15日01時52分に天文電報中央局(CBAT)のダン(グリーン)に送付しておきました。また、確認を依頼しておいた香取の野口敏秀氏からは、03時03分に「4月15日02時10分に12.3等と観測しました。測定位置で検索すると星表にある青い星とほぼ一致します。この星の増光でしょうか」という報告もあります。氏の観測は、03時25分にダンに伝えました。

夕方19時09分には、掛川の西村栄男氏から「昨日のこぎつね座の天体ですが、処理いただき、ありがとうございました。今朝は春霞の中ですが観測しました。昨朝より1等級くらい暗くなっております。新星ではなく、矮新星のようですが、研究材料として少しでも貢献できれば嬉しいです……。今回も処理していただき、ありがとうございました。私たちアマチュアのためにいつも尽力をいただいております。中野さんの影響力は本当に大きいと思います。いつまでもお元気で力添えをお願い申し上げます」というメイルが届きます。後日、4月22日には、嬬恋の小嶋正氏からも「先日のこぎつね座のPNにつきましては、矮新星と確認されているようです。中野さんの迅速な対応により、独立発見の一人となれたことに感謝申し上げます。また、今後もよろしくお願いいたします」というメイルが届き、この件はこれで終了しました。

へびつかい座新星2017=Nova in Oph 2017

4月28日01時23分に上尾の門田健一氏から「年明けから、メイルの連絡がしばらく途絶えておりました。だんだん集中力が低下して、いろいろ面倒になってきています。昼間の仕事は、今年の8月で定年まであと4年となり、そろそろ引継ぎと引退を考慮して、行動する時期になってきました。通勤のしんどさは変わらずで、帰宅して何もしない日もあります。天文の分野で別のことをやろうかとも考えておりまして、ご相談させていただくことになるかもしれません。さて、急増光・急減光したC/2017 E4のCCD全光度と画像を次のサイトにまとめました。彗星は、4月14日UTに急減光後、翌日少し増光して、4月18日UTに再び急減光。水滴状の頭部が細長い形状に変化しました。4月19.79日UTには細長く伸びた頭部の先端付近に弱いながら集光があり、なんとか精測ができました。その後は、悪天候で観測はできていません。なお、GWは4月29日朝〜5月5日夜まで帰省で不在です」という近況報告が届きます。『門田さん。本連載はこれで終わりですので、お便りをほぼ全文、使わせていただきました。お許しください』。

門田氏のまとめたC/2017 E4の情報は、その日の夕方、16時57分にダンに伝えておきました。そのあと、門田氏には『カーボンコピー(CC)でお知らせしたとおり、観測をグリーンに送っておきました。4月20日に母が亡くなり、葬儀の後、ぐったりしていたので、反応が遅くなりました。思い起こしてみれば、私の若いときは、40歳の後半には、両親が亡くなるのが一般的でした。70歳手前になって、葬儀をするのは疲れるものです。おばすて山があった方がいいような感じです。葬儀は、父親のときに経験しているのですが、どうやったのか、何にも覚えていませんでした。ただ、8月いっぱい、アメリカに出向きますので、そのとき、亡くなったら、どうしようと考えていましたので、これは幸いでした。仲間がみんな歳を取っていきますが、あなたは、私より、10歳以上も、若いのです。しばらくは、身体に気をつけ、頑張ってください』というメイルを送っておきました。なお、本連載6月号の原稿は、母が危篤の最中に書き上げ、すでに4月17日06時19分に送ってありましたが、天文ガイド誌で掲載している『彗星ガイド』は、母が逝きかけた4月19日23時56分に仕上げ、編集部に送りました。そして、この6時間後に母は亡くなりました。

それから10日ほどが過ぎた5月9日04時56分に山形の板垣公一氏から携帯に「新星状天体を見つけた。報告を送りました」という一報があります。氏の報告は04時55分に届いていました。そこには「2017年5月9日00時18分に21cm f/3.0反射望遠鏡でへびつかい座を撮影した捜索画像上に13.6等の新星状天体を発見し、TOCPに記載しました。発見後、直ちに50cm f/6.0反射望遠鏡で、発見位置を撮影して、03時01分にこの星の出現を確認しました。最近に発見位置を写した捜索画像はありません」という報告がありました。氏のこの発見は、04時55分にはダンに伝えておきました。板垣氏からは、05時39分に「拝見しました。ありがとうございます。この位置あたりだけ、星数が少ないので、おそらく、吸収減光で、真っ赤な状態なのかな……。分光観測が楽しみです」と報告を確認したというメイルが届きます。

この日は、業務が終わっても、まだ、帰れません。10時から母の法要があるのです。そこで10時に寺に出向きました。法要が終了した後、マックとマルナカによって、13時すぎに自宅に戻ってきました。ここは、田舎です。葬儀のあと、初七日から始まって、二十七日、三十七日(5月9日)、四十七日、五十七日、六十七日、七十七日、百ヶ日(7月28日)と法要が続きます。さらに新盆、8月31日の灯篭流しへと続きます。特に七十七日には、洲本地域の住民(真言宗)は、先山千光寺(標高448m)に上らなければなりません。先山という山名は、国生み神話でイザナギ・イザナミの二柱の尊が淡路島を創ったときに、最初にできた山がこの先山であるとされることから名づけられたといいます。なお、ここで、星の広場、第1回目の「星を見よう会(1968年)」が開催されました。来年(2018年)には、それからも、ちょうど50年となります。

その夕方には南淡路にあるコメリとイオンに出向き、帰りに吉野家によって、21時40分にオフィスに戻ってきました。空は、良く晴れていました。すると、22時02分には、香取の野口敏秀氏から「情報、ありがとうございます。残念ながら香取は悪天候で観測できません。木曜日頃には回復の見込みです」と香取は曇っているという連絡があります。しかし、その夜の深夜、5月10日00時52分には、山口の吉本勝己氏から「213Pの軌道要素ありがとうございます。さっそく星図ソフトの軌道データを書き直しました。今は月があり、観測は難しいですが、急増光も考えられますので、影響がなくなったらカメラを向けてみたいと思います。板垣さんのPNを5月10日22時27分にサイディング・スプリングにある50cm f/6.8反射望遠鏡で行いました。この新星のI光度は11.5等、V光度は15.0等でした」という観測が報告されます。この氏の観測は03時19分にダンに送っておきました。

それから5日後、板垣氏の発見したこの星は、5月15日23時20分に到着のCBET 4389で新星として公表されます。そこには「この新星状天体は、5月11日13時頃にチリ・ラパルマでスペクトル観測が行われ、新星の出現であることが確認された」と報告されていました。板垣氏の発見は、5月16日02時55分に「新天体発見情報No.237」を発行して、このことを報道機関に伝えました。それを見た板垣、吉本、野口の諸氏から発見情報を受け取ったとの連絡がありました。

レモン周期彗星(2016 WM48)

5月24日17時01分に東京の佐藤英貴氏から小惑星2016 WM48の観測が届きます。この小惑星は、レモン山スカイサーベイの1.5m反射望遠鏡でコワルスキが2016年11月30日におうし座を撮影した捜索画像上に発見した19等級の小惑星でした。小惑星は、発見同日、キットピークがレモン山に設置した1.0m反射望遠鏡、LINEARサーベイの3.5m反射望遠鏡でもとらえられていました。発見当初に行われた追跡観測から、この小惑星は彗星型の軌道(q=1.75au、e=0.79、a=8.20au)を動いていることが判明しました。小惑星は、発見後1か月半の期間観測されました。そして、Pan-STARRSサーベイで2017年1月13日に19等級で観測されたのを最後に見かけ上、太陽に近づき観測が途絶えました。小惑星の近日点通過は2017年2月26日でした。天体が彗星型の軌道を動いていることに着目していた東京の佐藤英貴氏も12月6日にこの小惑星を観測し、その光度を19.2等と観測しています。しかし、このとき、天体は、小惑星状であったようです。なお、12月2日には、美星(二村・浅見)でも、この小惑星を19等級でとらえています。

さて、この日に送られてきた佐藤氏の観測は、近日点通過後に小惑星が太陽から離れ観測可能となった5月23日になって、米国オーベリーにある61cm f/6.5望遠鏡で行ったものでした。観測に付けられた氏の注釈には「2017年5月23日20時過ぎにこの小惑星の観測を行った。この小惑星は彗星で、予報光度より3等級ほど明るくなっている。天体には、強い集光がある12″のコマが見られる。しかし、尾はない。光度は18.2等であった」と小惑星は、強く集光した12″のコマがある彗星の姿に変貌していることが報告されていました。佐藤氏からは、続いて、その翌日、10時00分にメイヒル近郊にある51cm f/6.8で5月24日19時半頃に行われた観測が届きます。このとき、小惑星には似たようなコマが見られ、その光度は18.4等でした。しかし、小惑星センター(あるいは、CBAT)から反応がないためか、5月27日14時33分にドイツのメイヤー氏主催のCOMET-MLに「この天体は彗星である。観測して欲しい」と投稿しています。佐藤氏の投稿が効いたのか、5月27日22時34分には、イタリーのブッジらの観測グループが、ハレアカラにある2mフォークス望遠鏡でこの小惑星を観測し、弱い集光のある7″ほどのコマを認め、この小惑星は彗星であったことを確認しました。同夜23時26分には、OAA/CSのEMESを発行し、観測者にこの事実を伝え、同時にダンにも送っておきました。

5月28日、11時31分に佐藤氏から「昨日は、小惑星2016 WM48の観測を国内の観測者に呼び掛けていただきありがとうございます。ブッジからハレアカラで確認したと連絡を受けました。集光は弱く、少なくとも6″〜8″のコマで、位置測定が困難であったとのことでした。私の画像ではよく集光していましたが、一過性の彗星活動を終えて拡散していく途上なのかもしれません。今後、条件は良くなりますが、拡散が進むと観測は困難になりそうです。あらためて特異小惑星の継続的な観測の意義を認識しました。ところで、5月9日のメイルで捜索しても見つからないと書いたC/2016 T1は無事にPan-STARRSによって再発見されました。特異小惑星確認ページ(NEOCP)に特異天体として再発見観測が上がるかもしれないと、しばらく監視していたので、掲載後、すぐに「これだ」とわかりました。こちらは近日点通過前には彗星状でしたが、近日点通過後には小惑星状になってしまいました。4月23日に豪州で検出を試みたイメージ上に、測定限界近くの21等で微かに写っていましたが、3月6日には21.5等、4月19日には20.0等より暗く写っていませんでした」という報告が届きました。

小惑星センターでは、ここまでの観測から13時11分到着のMPEC K72(2017)でこの小惑星を彗星として再び公表しました(小惑星として、その発見がMPEC X29(2016)で公表されている)。また、13時26分に到着のCBET 4395でも、その発見が公表されました。その後、日本でも、CCD全光度を新城の池村俊彦氏が5月28日に18.2等、30日に18.6等、芸西の関勉氏が6月3日に19.0等と観測しています。なお、彗星は、短周期彗星としては、めずらしく逆行軌道(軌道傾斜角が117.5°)を動く周期が23.5年の新周期彗星でした。

お知らせ『本連載は今月で終了となります』

1992年に天文ガイド誌『彗星ガイド』の中から始めたこの『新天体発見情報』は、2005年からは、アストロアーツの大熊正美さんに『これは、私の責務です』と無理やりお願いして、ページを割いていただき、星ナビに移りました。このシリーズは、ここまで、ちょうど、四半世紀にわたって続けてきたことになります。この間に文字数にして、約300万字を書きました。これは、図版を入れた150ページほどの単行本にして、約30冊ほどを書き上げたことになります。執筆し始めた当時は、すぐマンネリ化するだろうとも思っていました。しかし、天体の発見は、たとえ、それが誤発見であろうとも、いずれも新鮮で、似たような状況で起こる発見は、1件もありませんでした。つまり、天体の発見は、報告者にとって、すべてが新鮮なのです。私としては、個人的には、今後も記録していきます。それを皆様方に紹介できなくなるのは、大変残念ですが、何事にも終焉はあります。また、連載を始めた頃とは時流も変化しました。そこで、ちょうど、25年となるのを節目に終了することにいたしました。執筆の間、多くの方々からご意見、ご感想、お励ましをいただきました。皆様方の長い間のご愛読に厚くお礼申し上げます。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。