450光年かなたのマジック 突然消えた恒星周囲の円盤

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【2012年7月9日 NASAジェミニ天文台

土星の環がある日突然消えたとしたら。そんな不思議なことが450光年かなたで起こった。ある若い恒星の周囲に1980年代から観測されていた塵の円盤が、ここ2年で突然消えたのだ。


TYC 8241 2652と円盤

TYC 8241 2652と周囲の円盤の想像図。ここ2年の観測で、この円盤がいきなり消えてしまった。クリックで消失の様子をアニメーションで表示(提供:Gemini Observatory/AURA artwork by Lynette Cook)

「よくある手品を見ているようでした。『恒星の周りに塵の円盤が見えます、1、2、3……さぁ消えました!』」。こうたとえて不思議がるのは、今回の発表を行った米カリフォルニア大学のCarl Melisさんだ。

ケンタウルス座の方向にある、生まれて1000万年ほどの若い恒星「TYC 8241 2652」を囲んでいたダスト(塵)の円盤は、1983年にNASAの赤外線天文衛星「IRAS」で初めて確認され、その後25年間ずっと観測されていた。

こうしたダストは円盤の中でできた微惑星同士の衝突で生まれたもので、惑星が形成されるまでの円盤内で起こるごく普通のできごとだ。ダストは恒星の光のエネルギーを吸収し、それを熱エネルギーとして放射する。ダストは可視光では光らないが、この熱エネルギーが赤外線として観測されるのだ。

ところが2010年1月、NASAの赤外線天文衛星「WISE」の観測で、この円盤が消失しているらしいことがわかった。そして2年半後の今年5月、チリにあるジェミニ南望遠鏡でもこの消失が確認された。

「ダスト円盤を持っている恒星はいま研究されているものだけでも数百個はありますが、今回のようなケースは初めてです。この円盤消失は、人間の時間スケールで見ても驚くほど速く進行しました。ましてや天文学的なスケールで言うと、本当に一瞬のできごとです。あまりにも不可解であっという間だったので、最初は観測方法に問題があると思ったくらいです」(米UCLAのBen Zuckermanさん)。

現在、この謎の現象については2つの仮説があげられている。ひとつは、微惑星間の衝突でダストが作られるときに一緒に噴出されたガスの勢いで、ダストが恒星に一気に取り込まれて消えたというもの。もうひとつは、大規模な衝突からできた大型の岩石同士がぶつかって新しいダスト粒子が供給されることで衝突の機会が増え、ダスト粒子が見えないほどどんどん細かくなっていったというものだ。