水星探査機「メッセンジャー」の成果をまとめて発表

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【2011年9月30日 NASA

2011年4月より科学観測を行っている水星探査機「メッセンジャー」のこれまでの成果をまとめたものがアメリカの「Science」誌で特集号として発表された。ここでは水星の火山活動や表面の組成、磁気圏について紹介する。


探査機「メッセンジャー」は2011年3月に水星周回軌道に投入され、4月からおよそ1年に及ぶ科学観測を行っているところである。水星探査はNASAの探査機「マリナー10号」が1970年代に近づいて以来行われておらず、メッセンジャーが初めての本格探査となっている。ここでは「水星の火山活動」「水星の表面状態」「水星の磁気圏」について紹介しよう。

水星の火山活動

北極側から見た水星のクレーター分布

北極側から見た水星のクレーター分布。赤い丸が直径20km以上のクレーターを表し、黒い実線で囲まれた領域はクレーターが少なく、滑らかな表面をしている。クリックで拡大(提供:Courtesy of Science/AAAS and Brown University)

水星には火山性の堆積物が存在していたかどうか、というのがこの10年ほど議論になっていた。メッセンジャーが軌道投入されるまで3回水星へ接近し、その際に堆積物が存在しているらしいことはわかっていたが、どの程度の規模なのかという点はまだよくわかっていなかった。

メッセンジャーによる本格的な探査の結果、北極周辺の広い部分で火山性の堆積物が見られ、水星全体でも6%以上の領域になめらかで平らな表面が確認された。この火山性堆積物の厚さは、部分的にはおよそ2kmにもなるほど厚いものであった。

このような堆積物の元となった溶岩の噴出口(火道)の多くは堆積物の下に埋もれていると考えられているが、長さ25kmにもなる火道も発見されている。また火道の付近では組成が他と違った、地球で見られるコマチアイト()のようなものが見られているが、これらと何か関係があるのかもしれない。

今後は水星全体での火山性堆積物の地図を作ると共に、水星の火山の歴史を探っていくこととなる。

水星の表面状態

水星のクレーターに見られるくぼち

水星のクレーターに見られるくぼち。他の領域と比較して青みがかっているのがわかる。クリックで拡大(提供:Courtesy of Science/AAAS)

水星の表面にはこれまで見たことのないような地形が発見されていた。クレーターの中央丘やその周囲に見られる、とても明るく、他の領域と比べてやや青みがかったものだ。このような地形は月では見られたことがなく、「メッセンジャー」による詳細な観測が待たれていた。

メッセンジャーによると、この領域は不規則な形をした小さくて浅いくぼみが集まったものであることがわかった。これらのくぼみは水星で見られる他の穴とは違ったもので、緯度経度を問わず水星全体のあらゆる領域で見られた。くぼみの中には明るい物質があり、小さな衝突クレーターの集まりではなく、比較的新しいものであると言えそうだが、詳しいことはまだよくわかっていない。

メッセンジャーはガンマ線検出器とX線検出器を用いた表面の元素組成のマッピングも行っている。それによると、水星の表面には予想以上のカリウムが存在しており、月や他の惑星と比較して表面の平均組成が大きく異なっていることがわかった。

今回の新しい結果は、水星は他の惑星と比較して密度が大きいために鉄に富んでいるだろうという予測を否定するもので、水星全体の組成は始原的な隕石と同じようなものではないかと期待されている。

水星の磁気圏

メッセンジャーは水星の磁気圏も探査している。地上からの観測で水星には中性ナトリウムの大気があることが観測されていたが、今回メッセンジャーは極付近にイオン化したナトリウムが集まっている領域を発見した。水星にあるナトリウム原子が太陽風によって電子を剥ぎ取られ、イオン化しているものと考えられる。

また、水星の磁気圏にヘリウムイオンも存在していることがわかった。これらのヘリウムは太陽風という形で水星の表面に打ち込まれ、その後様々な方向に放出された結果、観測されたものと考えられる。

水星探査については、日本とヨーロッパが共同で「ベピ・コロンボ」という探査機を開発している。ベピ・コロンボは磁気圏から表層、内部構造までを対象とした、水星の総合的な理解のための探査計画が立てられており、2014年の打ち上げを目指している。

注:「コマチアイト」 地球では初期の頃に作られた鉱物で、非常に高温の環境下で形成されたと考えられている。現在の地球のマグマの主成分である玄武岩と比較するとマグネシウムの含有量が非常に多い。