隕石から迫る、小惑星上での有機物合成

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【2011年6月14日 NASA

地球に落下してすぐに回収された1つの隕石の分析結果から、アミノ酸を始めとした有機物の存在量と水の存在量に関係があることがわかった。隕石の母天体である小惑星で有機物が合成される際の環境を特定する、大きな手がかりとなることが考えられる。


(分析に用いられたタギッシュ・レイク隕石の画像)

分析に用いられたタギッシュ・レイク隕石。宇宙空間に近い環境に保つため低温で保管されている。クリックで拡大(提供:Michael Holly, Creative Services, University of Alberta)

生命を構成するたんぱく質はすべてアミノ酸からできているが、このアミノ酸が隕石など宇宙空間にあるものの中にも存在していることが知られており、生命誕生と何か関連があるかもしれないと指摘されている。このような有機物を調べるには隕石を用いるのが一番手ごろであるが、隕石はどうしても落ちてから地球で汚染された可能性があり、アミノ酸のような有機物の分析ができる隕石は数少ない。

今回の研究で分析に用いられたタギッシュ・レイク隕石(Tagish Lake:カナダ西部のタギッシュ湖)は2000年1月にカナダに落下した隕石で、多くの目撃情報があったため、落下から数日以内に回収された破片も多くあった。落下した場所が冬の凍った湖で、地球の汚染を受けにくい環境であったうえ、その後の調査で炭素を多く含んだ隕石であることがわかったため、タギッシュ・レイク隕石は有機物の分析に最も適した隕石として知られている。

分析したタギッシュ・レイク隕石に豊富に含まれるアミノ酸から、このアミノ酸中の同位体組成を測定することに成功した。生命活動によって作られるアミノ酸は炭素13(陽子を6個、中性子を7個持った炭素。ほとんどの炭素は炭素12で、微量の炭素13が存在する)に乏しく、無機的に作られたアミノ酸は炭素13が多いことが知られている。このタギッシュ・レイク隕石から得られたアミノ酸は炭素13に富んでおり、ほぼ間違いなく宇宙空間で無機的に作られたものであることが確かめられた。

また、破片によって特定のアミノ酸の存在量が10倍から100倍も異なることがわかった。この破片はそれぞれ構成鉱物が異なっていたために、そこから水の存在量や水による変成の違いについて調べることができる。調査の結果、水による変成とアミノ酸の生産量とに関係があることがわかった。

これはアミノ酸などの生命を構成するような物質の合成に水が大きな役割を果たしていることを示すおそらく初めての結果である。隕石の母天体である小惑星でどのように水が存在しているのかということが、有機物の合成に密接に関係していると言えそうだ。

これらの有機物の分析は地球の汚染を避けるために、取り扱いが非常に難しい。このような難しい分析で得られたノウハウは、サンプルリターンで得られたサンプルの分析計画を立てる際にも役立っている。