新たな「第9惑星」発見はいつ? NASAが疑問に答える

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【2011年2月21日 NASA

先ごろミッションを完了した天文衛星「WISE」のデータから太陽系の果ての「第9惑星」が見つかるかもしれないと期待されている。もし存在するとすればいつ、どのようにして判明するのか、Q&Aで紹介する。


2010年11月、木星より大きな太陽の伴星が「オールトの雲」(注1)に存在するかもしれないという説が学術雑誌「Icarus」で発表された。「テュケー(Tyche)」と名付けられたこの仮想の惑星が、先ごろ観測終了したNASAの広域赤外線探査衛星「WISE」によるデータから発見されるかもしれないというのだ。

2009年12月に打ち上げられたWISEは、4つの波長による全天サーベイ観測(注2)で、太陽系から遠方の銀河まで約270万枚の天体画像を撮影した。先ごろ完了した延長ミッション「NEOWISE」では、2つの波長による小惑星帯(注3)サーベイなどを行い、低温の褐色矮星(注4)1個、彗星20個、地球近傍天体(NEO注5)134個と小惑星帯天体約3万3,000個を発見している。

ミッションを終えたWISEは今月17日に冬眠モードに切り替えられ一旦運用を終了しているが、観測データの分析はこれからだ。今年4月から2012年3月にかけて、分析研究用のデータが順次公開される予定となっている。今後どのようにして未知の天体が発見されるのか? 気になる疑問への答えがNASAから発表されている。

Q:テュケーが存在するかどうかはっきりするのはいつ?

WISEのデータにとらえられているかどうかはっきりするまでは2年以上かかる。今年4月にミッション前半のデータが公開されるがそれだけでは不十分だろう。2012年3月には全データが公開されるので、それをもとにテュケーが存在するかどうか検証される。

Q:もしテュケーが存在するならWISEのデータには必ずとらえられているものなの?

必ずとは言い切れないが可能性は高い。WISEは6ヶ月の間をおいて2度の全天サーベイを行っているので、その間にオールトの雲の中で移動している大型天体があれば検出できるはずだ。両方のサーベイで波長12μmと22μmの遠赤外線をとらえているが、これは、テュケーのような木星より大きい低温の褐色矮星からの放射を観測するのに適している。

Q:テュケーが存在するとして、なぜ今まで見つからなかったの?

テュケーのような暗い低温の星は、地球から観測できるほどの可視光を発しない。WISEのような高感度の赤外線望遠鏡なら、その熱放射を赤外線でとらえることができる。

Q:他の惑星はローマ神話から名付けられている(注6)のに、なぜギリシャ神話由来の「テュケー」なの?

1980年代、約2600万年周期の楕円軌道を持つ太陽の伴星の存在が唱えられており、テュケーと同じくギリシア神話の女神である「ネメシス(Nemesis)」の名が与えられていた。仮説では、オールトの雲に近づくたびにその影響で弾き出された小天体が太陽系の中心部までやってきて彗星となり、時には地球に衝突し周期的な大量絶滅(注7)を引き起こすとされていた。しかし近年では大量絶滅の周期性は疑問視されており、それを説明するためのネメシスの必要性もなくなった。

それとは別に、数百万年周期の円軌道で太陽の周囲を周る伴星の存在が仮定されており、地球に厄災をもたらす「ネメシス」と対照をなすものとして、幸運の女神「テュケー」の名がつけられている。

注1:「オールトの雲」 太陽から0.5光年〜1光年程度に広がる球殻状の領域にあると推定される小天体の群落。1950年にオランダの天文学者オールトが提案したもので、長周期彗星(200年以上の周期を持つ彗星)の故郷とされている。

注2:「サーベイ」 特定の天体を観測するのではなく、全天あるいは特定の領域内に存在する天体をひと通り調査する、いわば地図作りのような観測ミッション。

注3:「小惑星帯」 火星軌道と木星軌道の間で小惑星が密集している、リング状の一帯

注4:「褐色矮星」 質量が小さいため核融合反応を起こさない暗い星。

注5:「地球近傍天体」 地球の公転軌道から4,500万km以内まで接近する軌道を持つ彗星や小惑星。

注6:「惑星の名前」 水星(英語でMercury)は商業神メルクリウス、金星(Venus)は女神ヴィーナス、火星(Mars)は軍神マルス、木星(Jupiter)はローマ神話でのゼウスの呼び名ユピテル、土星(Saturn)は農耕の神サトゥルヌス、天王星(Uranus)は天空神ウラヌス、海王星(Neptune)は海の神ネプトゥヌスに由来する。

注7:「大量絶滅の周期性」 地球上の歴史において、多数の種類の生物が同時に絶滅する「大量絶滅」がある一定の周期で発生しているのではという説。