クエーサーによる遠方銀河の重力レンズ像、初めて発見

【2010年7月27日 Caltech

「銀河の重力」の影響による「クエーサーの重力レンズ像」は、これまでに数百例ほど知られているが、それとは逆の「クエーサーの重力」の影響による「銀河の重力レンズ像」が初めて発見された。


(ケック天文台の10m望遠鏡がとらえた、レンズの役割を果たすクエーサー(青)およびその重力で浮かび上がった遠方銀河の重力レンズ像(赤)の画像)

ケック天文台の10m望遠鏡がとらえた、レンズの役割を果たすクエーサー(青)およびその重力で浮かび上がった遠方銀河の重力レンズ像(赤)。クリックで拡大(提供: Courbin, Meylan, Djorgovski, et al., EPFL/Caltech/WMKO)

(ケック天文台の10m望遠鏡がとらえたクエーサーによる重力レンズ効果のイラスト)

ケック天文台の10m望遠鏡がとらえたクエーサーによる重力レンズ効果のイラスト(右から:地球、青・白:クエーサー、赤:遠方銀河、赤線:クエーサーによって屈折して地球へ届く遠方銀河の光の経路)。クリックで拡大(提供: Caltech George Djorgovski氏のウェブページより)

重力レンズ効果とは、ひじょうに重力が強い天体が生み出す重力場の影響で宇宙空間がゆがめられ、その背後に存在する天体から放射される光線が屈折させられることによって、背後の天体像が変形したり2つ以上の複数の像となって拡大されたりして観測される現象だ。

重力レンズが発見されたのは1979年のことで、ある銀河の重力によって、背後のクエーサー(活動銀河中心核の一種)の重力レンズ像が浮かび上がっているようすが観測された。同様の「銀河の重力」の影響による「クエーサーの重力レンズ像」は、これまでに数百例が知られている。しかし、これまでとは逆の「クエーサーの重力」の影響による「銀河の重力レンズ像」が初めて発見された。

初の「クエーサーの重力」の影響による「銀河の重力レンズ像」を発見したのは、米・カリフォルニア工科大学やスイス連邦工科大学(EPFL)などの研究チームだ。同チームは、スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)による膨大なクエーサーのスペクトルデータの中から、従来観測されてきたものとは逆のパターンで起きる重力レンズ効果の候補を選び出した。

続いて、もっとも適した候補として、16億光年離れたクエーサー「SDSS J0013+1523」をケック天文台の10m望遠鏡を使って観測した。その結果、このクエーサーによって、約75億光年のかなたに位置する銀河の重力レンズ像が確認されたのである。

銀河自体の明るさに関係なく、重力レンズを利用して銀河の質量を計測する方法は、1936年に当時カリフォルニア工科大学の物理学者であったFritz Zwicky氏によって提案された。近年、この方法はひじょうに有効に活用されている。クエーサーの母銀河の質量の計測に使われたことはこれまでに一度もなかったが、スイス連邦工科大学 (EPFL)Frédéric Courbin氏は「これで、クエーサーが存在する銀河の質量の計測が可能となります」と話している。

また、米・カリフォルニア工科大学チームのリーダーS. George Djorgovski教授は「クエーサーは銀河の形成と進化を知るための貴重な天体です。このような重力レンズがもっと数多く発見されることで、クエーサーとクエーサーの存在する銀河との関係、さらにその進化について、理解を深めることができるでしょう」と話している。