「あかつき」、セラミックスラスターによる軌道制御を成功、世界初

【2010年7月7日 JAXA

6月28日に、金星探査機「あかつき」が新型の国産軌道制御エンジン「軌道投入用500N級セラミックスラスター」による軌道制御を世界で初めて成功させた。「あかつき」は同エンジンによる逆噴射によって、12月7日に金星へ最接近し金星周回軌道に投入される予定だ。


(軌道上実証に成功した軌道投入用500N級セラミックスラスターの搭載位置の画像)

軌道上実証に成功した軌道投入用500N級セラミックスラスターの搭載位置(提供:JAXA、以下同様)

(軌道投入用500N級セラミックスラスターの画像)

軌道投入用500N級セラミックスラスター

6月28日に「あかつき」は、地球から約1460万km、太陽から約1.06天文単位(1天文単位は地球と太陽の平均距離で約1億5000万km)の距離において、新型の軌道制御エンジンを13秒間燃焼させて、ほぼ計画どおりとなる秒速約12mの速度修正による軌道制御を行った。

「あかつき」に搭載されている軌道制御エンジンは「軌道投入用500N(※)級セラミックスラスター」と呼ばれ、主に「あかつき」が金星周回軌道に入る際に行う逆噴射に使用される。

従来、スラスターの材料には合金が使用されてきたが、日本では「あかつき」の打ち上げに向けて、耐熱性に優れたセラミックに置き換える研究が進められてきた。

人工衛星や探査機の軌道や姿勢制御には、一液式スラスター(水薬と触媒分解して高温・高圧のガスを発生させる)と、二液式スラスター(燃料と酸化剤を合わせて燃焼させて高温の燃焼ガスを発生させる)の2種類の推進系がある。二液式スラスターは一液式スラスターに比べ高性能だが、燃焼ガスがより高温になるため、材料に特殊な耐熱合金が必要となる。

従来使用されてきた合金は耐熱温度などの面で制約があったため、耐熱性や強度の高い窒化珪素製のセラミックスラスターが研究・開発された。また、これまでの二液式スラスターでは、スラスターの材質の冷却に推進剤の一部が使用されていたが、セラミックを材料とすることで、冷却にまわす推進剤の量を減らすことも可能となった。

次回の軌道制御(微調整)は11月上旬頃に予定されており、金星への最接近および金星周回軌道への投入は12月7日となる見通しだ。

そのほか、探査機および搭載機器の状態は正常で、打ち上げ当日夜に初期機能確認を終えた紫外線イメージャ(UVI)、1μm(マイクロメートル:1mmの1000分の1)カメラ(IR1)、中間赤外カメラ(LIR)に加え、新たに超高安定発振器(USO)についても期待どおりの周波数安定度が達成できていることが確認された。

※「N」(ニュートン)は、1kgの質量を持つ物体に1m毎秒毎秒の加速度を生じさせる力を表す(探査機の推進力を表す)単位。500Nは、地球上で50kgの物体にかかる重力にほぼ等しい。

<参照>

<関連リンク>

<関連ニュース>