逆回転するブラックホールからは強いジェットが放出される?

【2010年6月7日 JPL

大きなエネルギーを放射する遠方銀河の中心には、周囲の円盤の回転と逆方向に自転するブラックホールが、また、エネルギー放射が小さい近くの銀河には円盤の回転と同じ方向に自転するブラックホールが存在しているという理論モデルが発表された。距離による違いは、自転方向が進化の過程で変化してきた可能性を示しているようだ。


(円盤の回転に逆行して自転する超巨大ブラックホールの想像図)

円盤の回転に逆行して自転する超巨大ブラックホールの想像図。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech)

わたしたちの天の川銀河をはじめ、銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在している。太陽の数十億倍もの質量があり、その強い重力の影響で周囲の時空が歪んでいる。周囲のちりやガスがブラックホールに向かって落ち込むことで円盤が形成されるが、その一部は超高速のジェットとなって円盤と垂直な方向へ噴出する。また、円盤の表面では「降着円盤風」と呼ばれる激しい風(物質の流れ)が発生している。

ブラックホールには、周囲の円盤の回転方向と同じ向きに自転する(順行)ブラックホールと、逆向きに自転する(逆行)ブラックホールとがある。理論モデルの予測から、より早く自転するブラックホールほど、より強力なジェットを噴き出すと考えてられてきた。しかし、このモデルにはいくつかの問題点が明らかになっていた。たとえば、高速で順行自転するブラックホールを持つと推定される銀河のなかにはジェットが見られないものもあるという事実である。

NASAのジェット推進研究所の理論天体物理学者David Garofalo氏らの研究チームは、これまでの理論モデルの改訂を目指して研究を続けながら、かつて次のような論文を発表した。それは、逆行するブラックホールからはもっとも強力なジェットが放出される、順行するブラックホールではジェットが形成されなかったり、ジェットが噴出していても弱かったりする、というものだ。

Garofalo氏らはさらに、この理論と地球からさまざまな距離にある銀河の電波観測の結果とを結び付けて考えた。これらの銀河のなかには、ジェットを噴出している電波放射の弱い銀河や強い銀河だけでなく、ジェットを噴出していない銀河も含まれる。

その結果、より遠くにある(過去の)電波放射の強い銀河には逆行ブラックホールが存在し、比較的近い距離にある(現在の)電波放射の弱い銀河には順行ブラックホールが存在していると考えられることがわかった。この結果について研究チームでは、進化の段階で超巨大ブラックホールの自転が逆行から順行に変化したことを示していると考えている。

逆行ブラックホールがより強力なジェットを噴出する理由については、ブラックホールと円盤の内側の縁との間に(順行するブラックホールに比べると)より広い隙間ができ、そこへ磁場が形成され、その磁場によってジェットがエネルギーを得るためだと考えられている。

ジェットや降着円盤風は、銀河がたどる運命に重要な役割を果たす。いくつかの研究によって、ジェットは星形成を遅めたり形成そのものを妨げたりすることが示されている。その影響は、ブラックホールが存在している銀河だけでなく、近くにある別の銀河へも及ぶと考えられている。今回の研究成果は、銀河の進化への理解にさまざまな示唆を与えることになりそうだ。