無言のフェニックス、運用終了

【2010年5月26日 NASA

火星上空を周回中の探査機マーズ・オデッセイは、2008年から音信不通となっている火星探査機フェニックスからの信号を何度も確認しようとしてきた。しかし最後のチャンスとなった先週、フェニックスからの信号は検出されず、ついにフェニックスの運用が正式に終了した。


(MROが撮影したフェニックスの画像)

2008年(左)と2010年(右)にマーズ・リコナサンス・オービター(MRO)のHiRISEカメラが撮影したフェニックスの比較画像。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

(フェニックスの太陽電池パネル)

フェニックスが自身のカメラで撮影した太陽電池パネル。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/University Arizona/Texas A&M University)

先週、火星上空を周回中の探査機「マーズ・オデッセイ」は、フェニックスの着陸地点上空を61回通過した。フェニックスとの通信を試みる最後のチャンスだったのだが、残念ながら何の信号も検出されなかった。同様の試みは今年に入って150回も行われてきたが、最後までフェニックスからの「声」が届くことはなかった。

NASAのジェット推進研究所で火星探査計画の責任者をつとめるFuk Li氏は「フェニックスは、探査で成功を収め、設計寿命より長く生き続けました。運用が終わっても、今後しばらくは、データの分析が続きます」と話している。

フェニックスは2008年5月25日、夏を迎えていた火星の極北に着陸し、探査を開始した。太陽光発電で活動するフェニックスは、当初予定されていた3か月間のミッションを終了し、さらにその後も、太陽光が当たっていた約2か月の間活動を続けた。

フェニックスはそもそも、暗く氷に閉ざされた冬を生き延びるようには設計されていない。それでも、再び光が射せば復活するのではないかという望みをかけて、マーズ・オデッセイによる通信の検出が試みられてきたのである。

NASAの火星探査機マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)に搭載されている高解像度カメラHiRISEの画像には、活動していた頃とは異なるフェニックスの影が写っている。

フェニックスおよびHiRISE担当チームの一員で、米・コロラド大学のMichael Mellon氏は「以前の画像と最新の画像とでは劇的な違いがあります。探査機が小さく見えます。おそらく、探査機に降り積もったちりの面積の違いによるものでしょう。そのために周囲の地形から見分けにくくなっていると思います」と話している。

また、フェニックスの太陽電池パネルの一部は、二酸化炭素の氷(ドライアイス)の重さに耐え切れず折れるなどして、かなり深刻な損傷を受けたとみられている。Mellon氏の計算によると、探査機を覆う氷の総重量は数百kgにも及ぶようだ。

なお、フェニックスが活動中に発見した過塩素酸塩について、フェニックスの主任研究員をつとめる米・アリゾナ大学のPeter Smith氏は次のように話している。「氷の上にある、まるでスポンジのような役割をする土を発見しました。その中に含まれている過塩素酸塩が大気中の水を取り込み、保持します。膜のように薄い水の層さえあれば、生命を育む環境となり得ますし、土の粒子というミクロな世界こそ、生命活動の起こる場所なのです」

過塩素酸塩の発見は、宇宙生物学の分野にある種の方向性を与えており、研究者は不凍特性が及ぼす影響や、微生物がエネルギー源として利用する可能性などを調べている。最初にマーズ・オデッセイが火星を覆う一番上の層に氷を発見し、それがフェニックスの重要な探査目的となり、過塩素酸塩の発見に至った。また最近では、MROによるレーダー観測で、中緯度地域に大量の氷がかなりの深さにまで堆積していること、その一部は比較的新しいクレーターの表面に露出していることが明らかになっている。

Smith氏はこれら一連の発見について、「火星という惑星では、氷の豊富な領域が思っていた以上に広かったわけです。この広い領域のどこかに生命に適した場所があるでしょう」と話している。

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