世界最大の加速器が実験に成功

【2010年4月2日 CERN

欧州原子核研究機構(CERN)は、3月30日に世界最大の加速器「LHC」が、3.5兆電子ボルトという過去最高のエネルギーの陽子どうしを衝突させる実験に成功したと発表した。衝突で生成された粒子の分析によって、宇宙に存在する物質の起源や宇宙に満ちる暗黒物質の正体の解明、未発見の素粒子の検出などが期待されている。


(LHCの主な実験グループのモニターに表示された衝突の画像)

LHCの主な実験グループのモニターに表示された衝突のようす(左上から時計周りに実験グループ名:ALICEATLASCMSLHCb)。クリックで拡大(提供:CERN)

大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、2008年9月に稼動を開始した世界最大の加速器である。スイス・ジュネーブ郊外からフランスとの国境をまたぐ土地の地下100mに設置されており、高い磁場を生みだして全周27kmの円形のトンネル内で陽子どうしを加速させ、未発見の素粒子の検出などを行う大型施設である。

LHCでは、中央ヨーロッパ夏時間(以下同様)3月30日の早朝から、3.5兆電子ボルトの陽子どうしを正面衝突させる実験の準備が始まった。

午前中に何度かビームの入射が行われたのち、午後1時6分に2つの逆方向のビームが3.5兆電子ボルトにまで加速され、陽子どうしの正面衝突が見事観測された。これは、これまでの加速器で実現された衝突エネルギーの記録を3.5倍も上回るものだ。

このような高エネルギーの衝突は、自然界では繰り返し起こっており、そのプロセスで宇宙線が発生する。しかし、そこから研究に役立つような意味のあるデータを抽出するのは、ひじょうに難しい。また、人工的にそのような衝突をつくりだすには、LHCにおいて数千もの部品が確実に作動しなければならず、円滑な稼動のためには数百か所の制御が必要となる。

それだけに、実験当日のCERNコントロールセンターは、万が一の事態に備え、10数名の担当者がコンピューターのモニター前に配置されるなど、興奮や緊張、期待と不安の入り混じった雰囲気に包まれていたという。

実験の成功について、1988年のノーベル物理学賞受賞者Jack Steinberger氏は「LHCにおける、3.5兆電子ボルトのビームの衝突、合わせて7兆電子ボルトのエネルギー。これは、素粒子物理学者にとって実にすばらしいニュースです。宇宙の暗黒物質とは何なのかを明らかにできるかもしれません。今後の安定稼動に期待しています」と話している。

また、CERN理論グループのJohn Ellis氏は「人類は、物質というものをより深く見ることになります。たくさんの理論がありますが、そのうちどれが正しいのかは、実験で証明するしかありません。なぜ粒子に重さがあるのか、宇宙に満ちる暗黒物質とは何なのか、宇宙に存在する物質の起源とは何なのか。これらの疑問に対する答えが、LHCにおける発見によってもたらされ、この宇宙の働きや進化に関するわれわれの理解を大きく変えることでしょう」と話している。

LHCでは、すでに衝突で生成された粒子の解析が始まっているが、今後18か月から24か月にわたる連続稼動で、さらに研究に必要なデータが蓄積される。その後は、運転休止期間に入り、2008年の9月19日に起こった事故の最終修理や、14兆電子ボルトでの衝突のための改良が施される。なお、日本の高エネルギー加速器研究機構の加速器は世界最高レベルの性能を誇っており、LHC改良への日本の参加について、現在話し合いが進められている。

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