「フェルミ」、銀河宇宙線の姿や新種のガンマ線天体候補に迫る

【2010年3月29日 広島大学(1)(2)

日本の研究者を含む共同研究チーム3つが、それぞれNASAのガンマ線天文衛星フェルミによる観測やデータの分析を行い、天の川銀河の外側に満ちる宇宙線や、超新星残骸によって加速され拡散したと考えられる宇宙線のようす、さらに「りゅうこつ座η(エータ)星」が新種のガンマ線天体である可能性などを明らかにした。


天の川銀河は外側も高エネルギーで満ちていた

(銀河系の概念図)

銀河系の概念図。三角形が観測された領域。クリックで拡大(提供:広島大学理学部物理化学科 水野恒史氏(背景の銀河系の想像図:NASA/JPL/Caltech))

「宇宙線」とは、宇宙空間をほぼ光の速さで飛び回る高エネルギー粒子の総称で、地球にもたえず降り注いでいる。エネルギーの低いほうから、太陽を起源とする「太陽宇宙線」、太陽系外縁部で発生すると考えられている「特異宇宙線」、超新星残骸や中性子星、活動銀河核などを起源とする「銀河宇宙線」や「銀河系外宇宙線」(注)に分けられる。

宇宙線の総エネルギーは宇宙背景マイクロ波放射や星の光のエネルギーをも上回ると見積もられており、天の川銀河の主要な構成要素といえる。

電波観測によって、銀河宇宙線の源とされる超新星残骸は天の川銀河の中心に集中していることがわかっている。そのため、宇宙線の強度は天の川銀河の外側では急激に下がると考えられてきた。

この仮説を確かめる目的で、日本フェルミチームを含む研究チームはガンマ線天文衛星フェルミを使って、(ガンマ線で明るい天体にじゃまされない領域を選び)太陽系の外側にある約1万光年の以上先までの領域を過去最高の感度で観測した。

その結果、予想以上に強いガンマ線が検出され、天の川銀河の外縁部まで高エネルギーの宇宙線で満ちていることが明らかとなった。

研究チームでは今後も観測を継続し、今回観測された領域と他の領域との比較をもとに天の川銀河内の宇宙線の姿を明らかにしたいという。

(注)エネルギーが10の18乗電子ボルト以上のものは銀河系の磁場に束縛されないため、「銀河系外宇宙線」と考えられている(電子ボルト:1ボルトの電圧で加速したときに得られるエネルギー)。


超新星残骸で加速され、拡散する宇宙線をとらえた?

(W28周辺のガンマ線の強度分布図)

W28周辺のガンマ線の強度分布(白い破線:衝撃波面、黒の等高線:一酸化炭素分子からの電波強度=星間ガスの密度)。クリックで拡大(提供:フェルミ衛星チーム、名古屋大学NANTENチーム)

宇宙線は、宇宙空間から地球に絶えず降り注いでいるが、どこでどのように加速され、どのように拡散して地球に届いているのかは解明されておらず、大きな謎となっている。

宇宙線を加速するもっとも有力な候補として、星が一生を終える際の大爆発である超新星爆発で発生する衝撃波があげられている。

広島大学、米・国立加速器研究所(SLAC)、名古屋大学を中心とする研究グループは、超新星残骸W28の周辺の分子雲(密度の高いガス)2つから放射されるガンマ線を観測した。その結果、超新星残骸で加速された宇宙線が宇宙空間に放出され拡散していくことを示唆する結果が得られた。

観測されたガンマ線は、超新星爆発で発生した衝撃波の中で加速された宇宙線が、周辺の密度の高いガス(分子雲)中の原子と反応して放射されたものと考えられている。

画像中、分子雲「N」には衝撃波が到達(衝突)していると考えられる。「N」でとらえられたガンマ線は、衝撃波中の宇宙線と分子雲が反応して放射されたものと考えられる。一方、分子雲「S」には衝撃波が到達していないにも関わらずガンマ線が観測されている。ひとつの解釈として、衝撃波から放出され拡散した宇宙線と分子雲が反応して放射されたガンマ線だという可能性がある。

この研究によって、宇宙線の拡散過程を理解する上での有用なデータが得られた。地球に届く大半の宇宙線がどこでどのように加速されているのかという大問題を解明するために、今後もフェルミの観測データを使った研究が進められる。


新種ガンマ線天体か?りゅうこつ座η星

(ガンマ線で撮影されたりゅうこつη星)

ガンマ線で撮影されたりゅうこつ座η星(緑の十字)。クリックで拡大(提供:フェルミ・ガンマ線衛星チーム)

(「りゅうこつ座η星」と伴星の想像図)

りゅうこつ座η星と伴星の想像図(オレンジ:互いの星風が衝突している場所、黒線:伴星の公転軌道)。クリックで拡大(提供:広島大学)

「りゅうこつ座η(エータ)星」は、地球から約7500光年の距離に位置する銀河系内でもっとも重い恒星だ。質量は太陽の100倍もあり、太陽の数十倍の質量をもつ伴星と連星系をなしている。

広島大学 宇宙科学センターの特任助教 高橋弘充氏らの研究グループは、ガンマ線天文衛星フェルミが集めた過去1年のデータを分析し、りゅうこつ座η星が伴星との相互作用によってガンマ線を放射している可能性を明らかにした。

太陽フレア以外の現象で、恒星からガンマ線が検出された例はこれまでにない。また、観測されたガンマ線放射の最高エネルギーは、太陽フレアのガンマ線の1000倍以上である1000億電子ボルトにも達していることがわかった。

太陽フレアよりもはるかに高いエネルギーのガンマ線が恒星から放射されていることが確実になれば、新種のガンマ線天体の発見となる。

これほど高いエネルギーのガンマ線が放射される理由は、りゅうこつ座η星と伴星それぞれから放出された星風が激しく衝突することでガンマ線が生成されているためではないかと考えられている。

りゅうこつ座η星ほど重くはないものの、恒星どうしの連星系は銀河系内に多く存在している。研究チームでは、そのほかの恒星もガンマ線を放射しているのか、またその放射メカニズムはどのようなものかを明らかにするため、今後もフェルミのデータをもとにした研究を進める。

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