「ひので」、太陽黒点の発生メカニズムの矛盾を解決

【2010年3月9日 国立天文台

日本の太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)が、太陽の南北の極に斑点状の強い磁場を発見した。この磁場の発見で、黒点の発生や太陽風の加速メカニズムにおける矛盾が解決した。


(「ひので」がとらえた強磁場斑点の画像)

「ひので」がとらえた強磁場斑点。クリックで拡大(提供:国立天文台/JAXA、以下同)

(強磁場斑点と黒点の特徴)

強磁場斑点と黒点の特徴。クリックで拡大

(極域磁場と磁力線の概念図)

極域磁場と磁力線の概念図。クリックで拡大

(極域上空の想像図)

極域上空の想像図。クリックで拡大

これまで、太陽の南北の極域には数ガウスほどの弱い磁場しか存在しないと考えられてきた。極域は黒点の種になる磁場が観測できる領域だが、この程度の弱い磁場では、黒点を作るにはまったく足りないのだ。黒点の発生には太陽内部に10万ガウスの磁場が必要と考えられているが、数ガウスでは10年で1000ガウス程度の磁場しか作れず、実際に黒点が生じていることと矛盾があった。

この太陽黒点の生成に関わる矛盾が「ひので」によって解決された。高い分解能を誇る「ひので」の観測から、太陽の極域全体に斑点状の強い磁場(強磁場斑点)が発見されたのである。

強磁場斑点は黒点に比べると大きさが10分の1以下と小さく、寿命も(黒点が数日から数か月であるのに対し)約10時間ととても短い。しかし、その磁場強度は黒点並みの1000ガウスもある。1000ガウスあれば、10年で黒点を発生するのにじゅうぶんな10万ガウスの磁場を作り出せる。

さらに、強磁場斑点から伸びる磁力線は、とくに表面付近でラッパ状に広がっており、惑星間空間に広がる高速太陽風は、これらのラッパから来ていることもわかった。

高速太陽風は、アルベン波によって加速されているという説が有力視されている。横波であるアルベン波はエネルギーが衰えにくいため、太陽表面で発生した波動エネルギーをコロナ上部まで輸送することが可能で、「コロナ加熱」(参照)に重要な役割を果たしていると考えられている。

これまで考えられていたように極域が弱い磁場で埋め尽くされているとすると、太陽表面で発生したアルベン波の速度が彩層とコロナの境界で急激に変化して、そのほとんどが反射されてしまい、エネルギーがコロナに伝わらないという問題が指摘されてきた。

今回「ひので」が発見した強磁場斑点とそのラッパ状の磁場形状は、アルベン波の反射を防ぎ、コロナへアルベン波を運ぶトンネルの役割を果たす。このことから、高速太陽風の加速メカニズムにおける問題も解決した。

コロナ加熱問題

太陽大気のコロナの部分は100万度以上と高熱だ。表面温度6000度の太陽本体に比べて、なぜこれほどまでにコロナが高温になるのかはよくわかっておらず、「コロナ加熱問題」として太陽の謎の1つとされている。太陽磁場が関係しているという説もある。