赤外線天文衛星ハーシェルに期待高まる

【2009年7月15日 ESA

6月14日にファーストライトを迎えたESAの赤外線天文衛星「ハーシェル(Herschel)」は、搭載されている3機すべての観測機器で動作試験を実施した。地球を飛び出した望遠鏡として過去最大の口径をほこるだけあって、試写の段階で圧倒的な実力がうかがえる。


今年5月14日に打ち上げられたハーシェルは、6月14日に最初の観測を実施したあと、6月22日から24日にかけてさらなる試験観測を行った。ハーシェルは口径3.5mの望遠鏡と3種類の観測機器で構成されているが、今回の試験観測ではすべての機器で撮影が実施され、画像が公開されている。

3つの観測機は、いずれも赤外線を分光観測(波長ごとに分けてスペクトルを調べる)するか測光観測(特定の波長で天体の明るさを調べたり画像を作ったりする)する点では同じだが、それぞれ異なる波長の赤外線に感度を持つため、補完しあうことで撮影対象を総合的に分析することができる。

分光・測光撮像機SPIRE

(ハーシェルが異なる3波長でとらえたM74の画像)

SPIREを使い3つの異なる波長でとらえたM74。クリックで拡大(提供:ESA and the SPIRE Consortium)

SPIREは、観測例が少ない波長194〜672μm(マイクロメートル)の赤外線をとらえ、星が誕生する現場を、天の川銀河の中から宇宙初期の銀河に至るまでのあらゆる段階で研究することを目的とした装置だ。

試験観測では、うお座の方向2400万光年の距離にある銀河M74を3つの波長で撮影し、銀河の外側に広がる構造を明らかにした。きわめて解像度が高いので、M74よりはるか奥に存在する銀河が点状に写っている。

遠赤外線ヘテロダイン分光計HIFI

(ハーシェルがとらえた炭素と一酸化炭素、さらに水のスペクトル)

HIFIでとらえた炭素イオン(C+)、一酸化炭素(CO)、水(H2O)のスペクトル。クリックで拡大(提供:ESA and the HIFI Consortium)

波長157〜212μmおよび240〜625μmの赤外線を細かいスペクトルにわけることができるHIFIは、形成後間もない星とその周囲の環境を調べる。観測の対象となったのは、はくちょう座にある巨大分子雲「DR21」だ。

画像はNASAの赤外線天文衛星スピッツァーが撮影した、DR21の中の星形成領域。誕生したばかりの星からの作用で、星雲の中には巨大な泡や波紋のような構造が生じている。HIFIはその一部を観測して、物質の分布を調べた。

同領域からは炭素イオン、一酸化炭素、水に対応するスペクトルの赤外線が検出された。分布のしかたから、これらの物質が若い星から外側へと広がっていることがわかるという。

光電アレイカメラおよび分光器PACS

(ハーシェルが明らかにしたキャッツアイ星雲のちりの構造)

PACSで明らかにされたキャッツアイ星雲のちりの構造。クリックで拡大(提供:ESA and the PACS Consortium, NASA/JPL-Caltech/J. Hora (Harvard-Smithsonian, CfA))

PACSは、分光器としてもカメラとしても機能する装置。他の装置に比べて解像度では劣るが、波長55〜210μmの赤外線をとらえ、若い銀河や星が生まれる現場のガスを観測するのに最適である。

試験撮影の対象となったのは、りゅう座の方向約3000光年の距離に位置するキャッツアイ星雲(NGC 7543)。PACSは、この星雲における電離した窒素と酸素のスペクトル線を観測し、ちりがつくる構造が完全なリング状ではなく、片方だけ口をあけているような形であることを明らかにした。


現在ハーシェルでは、これら試験画像を元に観測能力の検証が進められている。試験や機器の調整は今年の11月末まで続けられ、本格的な観測はその後始まる。