すばる望遠鏡、ティコの超新星残骸の起源を解明

【2008年12月8日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡による観測で、「ティコの超新星残骸」の周囲に発見された可視光の「こだま」が爆発当時の光であること、超新星爆発が標準的なIa型であったことが明らかとなった。


(ティコの超新星残骸の画像)

ティコの超新星残骸。X線、中赤外線、近赤外線による観測結果を重ね合わせた画像。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

(超新星からの光の模式図)

超新星からの光の模式図。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

(可視光の「こだま」のスペクトル)

すばる望遠鏡が観測した可視光の「こだま」のスペクトル。横軸は波長、縦軸は光の強さ。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

オランダの天文学者ティコ・ブラーエは、1572年にカシオペヤ座の方向に金星よりも明るく輝く星を見つけ、この新しい星の明るさや色の変化を正確に記録した。この「新しい星」が、現在「ティコの超新星」の名前で知られる超新星爆発であったとわかったのは、20世紀になってからのことである。

また今世紀に入って、ティコの超新星に伴星の候補が発見されたため、超新星の中でもIa型と呼ばれる種類の爆発だったのではないかと推測されるようになった。しかし、それを証明する明確な証拠はなかった。

Ia型超新星爆発は、連星系を構成する白色矮星が相手の星から降り積もったガスの重みで圧縮され、暴走的核融合反応を起こすことで発生する。Ia型の超新星は、最大光度時の絶対等級がほぼ一定である。そのため、遠方の銀河までの距離を測定するための標準光源として用いられている。しかし最近になって、標準光度より明るいまたは暗いIa型の超新星が発見され始めた。このようなIa型の多様性を説明するため、超新星爆発のメカニズムを詳細に理解する必要性が出てきたのである。

国立天文台ハワイ観測所、東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)、マックスプランク天文学研究所(MPIA)の研究者で構成される研究チームは、「ティコの超新星」が爆発当時に放った「光のこだま」の候補をいくつか観測した。「光のこだま」とは、光源から離れた場所にあるちりが反射する光の波が遅れて地球に到着し、淡い光として観測される現象のことである。候補の中に、見かけ上1か月ほどかけて移動している淡い光が発見された。

同チームは、すばる望遠鏡に搭載されている微光天体分光撮像装置FOCASを使って、この「こだま」の候補の観測を行った。結果、そのスペクトルが、電離したケイ素(Si)の強い吸収線が見られる一方で水素原子の吸収線が欠落しているという、Ia型超新星に特徴的なものであることが明らかとなった。

すばる望遠鏡による観測で、この淡い光が超新星を起源とするものであり、1572年にティコ・ブラーエが観測した超新星爆発当時の光であることがわかった。また過去に天の川銀河以外で起きた超新星のスペクトルとの比較から、ティコの超新星がIa型の中でも標準的な光度を示す超新星爆発であったこともわかった。さらに、Ia型と判明したことから、これまで正確にわかっていなかったティコの超新星までの距離が、約12,000光年と見積もられた。