水星大気の時間変動を地上から観測

【2006年11月15日 アストロアーツ】

水星にはナトリウムなどからなる希薄な大気が存在する。しかし、太陽に近い水星は、通常なら日の出直前か日没直後にしか観測できない。日本の研究チームは日中に観測を行うことで、世界で初めて長時間にわたる水星大気の連続観測に成功した。


(水星大気の時間変動)

水星大気光の時間変動。1つの列が、ある時刻における水星の緯度方向における大気光分布をあらわす。横方向が時間の経過(左から右へ、1コマ約10分)をあらわす。クリックで拡大(提供:東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 岡山天体物理観測所)

(水星大気の分布)

2006年6月14日にハワイ・ハレアカラ観測所から撮影した水星大気光の分布。クリックで拡大(提供:東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター)

太陽系の第1惑星水星は、他の固体惑星と比べて小さく、太陽に近いため、金星や地球のように厚い大気は見られない。しかし、ひじょうに薄いながらも大気は存在し、水素、ヘリウム、酸素、ナトリウム、カリウム、カルシウム原子が検出されている。なかでもナトリウム大気は、地球のオーロラの100倍以上の明るさで輝く。

ナトリウム大気は、地表面の物質がさまざまな作用で放出されて形成されると見られる。太陽光の影響を大きく受け、分布は一様ではなく太陽光の圧力によって反対側に尾を引く。また放出されたナトリウムは数時間程度で散逸してしまい、分布は時間とともに変動している。ナトリウムを放出させる要因としては、太陽の光、熱、太陽風、隕石の衝突があげられているが、どれが一番大きく作用しているかは解明できていない。それは、水星を観測することが困難だからだ。

水星は地球から見ていつも太陽の近くにあり、通常は日の出直前か日没直後に観測することになる。すると1日の観測時間はおよそ30分が限度で、連続的な時間変動をとらえることができない。

そこで、東京大学の大学院生亀田真吾氏らの研究チームは、日中に観測を行うことで水星大気の光を長時間にわたって観測し続けることを試みた。研究チームは2005年12月に岡山天体観測物理所で4回観測を行い、太陽からの迷光を暗幕で防ぐことによって、最長6時間にわたって水星ナトリウム大気の変動をとらえることに成功した。

水星大気がこれほどの長時間にわたって連続観測されたのは世界で初めてのことである。ナトリウム光の観測結果からは、全体を平均するとあまり変動が大きくないこと、赤道付近と極地方付近とでは変動パターンが異なることがわかった。過去の観測では、太陽風による放出を示唆するような大気分布が見つかっていた。だが、おもに太陽風が作用しているのであれば大気は1時間で20パーセント程度の増減を見せるはずである。連続観測の結果それほどの変動はなかったので、太陽風の影響はこれまでの予想よりも小さいかもしれない。ただ、緯度によって変動パターンが異なるのは、やはり太陽風の変動に依存している可能性がある。

研究チームはこのほかにも、水星大気のメカニズムを解明するためにさまざまなアプローチを試みている。2006年6月にはハワイ・ハレアカラ観測所から、世界で初めて水星ナトリウム大気をすきまなく広範囲にわたり観測することに成功した。また、11月9日に起きた水星の日面通過の際は、手前の水星大気が成分によって異なる色の太陽光を吸収することを利用し、大気の分布や未検出の大気成分を観測することに挑戦している。

もちろん、究極の観測手段は実際に水星へ行くことである。研究チームは、2013年打ち上げ予定の日欧共同水星探査計画(ベピ・コロンボ)に搭載される2つの観測機器の開発と製作にも携わっている。


(※本ニュースは、東京大学大学院 地球惑星科学専攻の亀田真吾様より提供いただいた情報をもとに、地球電磁気・地球惑星圏学会の記者発表資料を参考にして作成しました。)