マーズ・エクスプレス画像集:火星のカセイ谷

【2006年9月11日 ESA News

火星にカセイ谷がある。たまたま発音が似ているのではなくて、日本語の「火星」から名付けられた立派な名前だ。しかも、かつて火星に水が豊富に存在したことをうかがわせてくれる重要な地形なのだ。カセイ谷をとらえた、ESAの火星探査衛星マーズ・エクスプレスの画像を紹介しよう。


(カセイ谷の北の支流から西の方向を見た画像)

カセイ谷の北の支流から西の方向を見た画像。クリックで拡大(以下同)(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

(カセイ谷領域を捉えた画像)

カセイ谷領域を捉えた画像(提供:FU Berlin/MOLA)

カセイ谷(Kasei Valles)は「アウトフロー・チャンネル」(outflow channel)と呼ばれる地形だ。アウトフロー・チャンネルとは、大規模な洪水が流れた跡と推定される地形で、カセイ谷はその中でも特に大きい。おそらく、洪水が流れて土砂を削った上にさらに氷河が形成されて、地表の浸食を続けたからではないかとみられている。ESAの火星探査衛星マーズ・エクスプレスに搭載された高解像度ステレオカメラ(HRSC)で撮影された画像からは、かつて火星に水がありふれていた時代が目に浮かぶほどの迫力を感じさせてくれる。

今回公開された画像は、Sacra Mensaという、広大なカセイ谷の中でもちょうど川の中州のような地形を挟んだ南北の支流。支流の深さは共に2900キロメートル。カセイ谷の南側にはEchus Casma、東にはバイキング1号の着陸地点からさほど遠くないChryse Planitiaという平原があり、Echus Casmaを含めると谷は長さ2500キロメートル、幅500キロメートルに伸びている。


(カセイ谷の北の支流から東方向を見た画像)

カセイ谷の北の支流から東方向を見た画像。クリックで拡大(以下同)(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

(カセイ谷の南の支流から南西を見た画像)

カセイ谷の南の支流から南西を見た画像。(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

北の支流から東の方向を見た画像には、右半分にSacra Mensaが、手前にはいびつな楕円形のくぼみもとらえられている。これは、隕石の衝突の跡と考えられている。

また、南の支流の画像には、支流両側にテーブル状に広がる幅30キロメートルの台地や、深さ約1〜2キロメートルの支流とともに広がるSacra MensaやSacra Fossaeが、はっきりととらえられている。

火星の表面

現在の火星に海や川はなく、砂漠のような乾いた世界が広がっています。しかし、かつて大量の水が流れてできたとしか考えられない地形が、数多く見つかっています。河川のあった跡、水が低地である北半球に一気に流れ込んだ大洪水の跡、洪水で運ばれて丸みを帯びた岩の列などが今の火星には残されています。また、氷河の跡と思われる地形も存在します。(「太陽系ビジュアルブック」より抜粋)