国内最大の望遠鏡、建設へ

【2006年8月7日 京都大学

日本国内では最大となる、3.8メートル望遠鏡の建設が岡山で始まる。大きさもさることながら、分割式の採用、民間からの資金援助など、国産の望遠鏡としては初めてとなる要素が多い。望遠鏡のファーストライトは2011年の予定で、ブラックホールやガンマ線バーストなどの性質にせまる観測を行うことになっている。


(3.8メートル新技術天体望遠鏡の完成予想図)

3.8メートル新技術天体望遠鏡の完成予想図(京都・岡山 3.8m 新望遠鏡計画のホームページより)

この望遠鏡の建設に携わるのは、長田哲也教授(京都大学大学院理学研究科宇宙物理学教室)、柴田一成教授(京都大学大学院理学研究科附属天文台)らの研究グループ。民間会社のナノオプト二クス研究所(代表取締役:藤原洋)が資金を援助する。民間からの資金援助による望遠鏡建設は、海外では珍しくないが、国内では初めてのことだ。8月1日に関係者間で覚書締結式が行われ、建設開始が正式なものとなった。

3.8メートル天体望遠鏡の建設には、将来建設をめざしている30メートル級望遠鏡のために必要な基礎技術を実験開発するという目的もある。

世界各地で計画が進む次世代の超巨大望遠鏡では、ほとんどの計画で数百枚以上の分割鏡が使われるが、ネックとなるのが製作スピードだ。鏡の研磨は、砥粒を流してゴシゴシ磨く方法が一般的。その上、分割された鏡の1枚1枚は非球面鏡なので、製作に1〜2年かかってしまう。

これに対して、3.8メートル望遠鏡を構成する18枚の鏡は、1枚あたり数週間で完成することをめざすという。速さの秘密は、砥粒ではなく砥石を使った研磨だ。わずか1ナノメートルの精度で砥石の位置を制御し、砥石の磨耗や鏡材のたわみなどによる影響も、削り具合をリアルタイムで測定しフィードバックすることで最小限に抑える。

鏡材自体も、温度膨張率がほぼゼロのハイテク材料で作られる。そして、分割鏡方式でもっとも重要となる1枚1枚の鏡の位置・角度あわせには、高精度のアクチュエータが用いられる。位置は常にセンサーで読み取られてフィードバックされる。もちろん、それを長期間にわたって安定させることも必要だ。

超大型望遠鏡には、架台の構造の軽量化も要求される。スケールが2倍になると、重さは2の3乗で8倍となるが、支える強さは2の2乗で4倍にしか増えないため、新望遠鏡には、トラスで組んだ極めて軽量の架台が採用される。

3.8メートル新技術天体望遠鏡の建設地は、国内でもっとも観測条件の良い国立天文台岡山天体物理観測所の隣接地となっている。5年後の2011年に予定されているファーストライトの後は、国内最大の口径を活かし、数十ミリ秒の測光や分光によって突発天体現象をとらえたり、超高分散観測(波長の5万分の1まで分光する)で星や惑星形成領域の星間水素分子の分布を探ったりする予定である。

なお、「京都・岡山 3.8m 新望遠鏡計画」のページでは、同望遠鏡のアニメーション動画が公開されている。

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