星の都会生活に平穏はない − 天の川銀河中心付近の大混雑をX線で見る

【2006年7月26日 Chandra Photo Album

NASAのX線天文衛星チャンドラが撮影した、天の川銀河の中心付近の画像が公開された。主役は巨大ブラックホールではなくて、狭い空間に押し込められた無数の恒星だ。巨大な星どうしで輝きを競い合っているかと思えば、大規模な星団を形成して近くの星間ガスに衝突するなど、実にせわしない。


(銀河系中心方向の画像)

3つの星団とその周辺。3つの異なるエネルギーに相当するX線を撮影し、弱い順に赤、緑、青の疑似色をつけた合成画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/UMass Amherst/Q.D.Wang et al.)

天の川銀河の中心部は、巨大ブラックホール・いて座A*を取り囲むメガロポリスだ。片田舎の住人が都会の華やかな生活にあこがれることはあるかもしれない。しかし、太陽がここではなく、2万8000光年離れた地方に位置していることにわれわれは感謝するべきだろう。都会はにぎやかで、明るくて、何もかもが集まっているが、この領域は度を超えている。

X線天文衛星チャンドラにとって、強力なX線源である天の川銀河の中心方向は格好の観測対象だ。これまで200万秒(約550時間)を超える時間が撮影のために割かれてきた。この画像は、そのうちの100万秒分のデータを元に作られたもので、いて座A*に近い縦168光年・横130光年という領域に詰め込まれた星々が写っている。とりわけ密集しているのは3つの星団、「Arches(右上)」「Quintuplet(中央上寄り)」「GC星団(中央下)」である。とらえられているのは可視光ではなく、はるかにエネルギーの大きいX線だ。そう考えると、「にぎやかで明るい」どころではない、すさまじい活動の様子が実感できるだろう。

巨大な星は、それ自体が強力なX線源となりうる。激しく輝く星の表面からは絶え間なく恒星風が吹き出すが、この恒星風が他の星、特に伴星からの恒星風と衝突することで加熱され、X線で輝くのである。さらに、超新星爆発とそれに続く衝撃波もやはり周囲のガスを加熱してX線を発する。そして恒星が死んだ後も、中性子星やブラックホールの連星としてX線を出し続けるかもしれない。

このように自己主張の強い住人だらけだが、喧騒の原因はそれだけではない。ここに見られる3つの「都市」は、それぞれがまとまって周辺部との間に一騒動を起こしている。例えば、低温で高密度な分子ガス雲との衝突だ。おそらく、画像中に見られるぼんやりとしたX線の輝きは、衝突でガスが暖められたことによるものである。さらに、衝突はガスを収縮させ新たな星を作るが、他の領域に比べ星や物質の密度が大きい天の川銀河中心部では、より質量の大きい恒星が生まれやすい。かくして、喧騒はますます大きくなるのである。