惑星や生命の材料が受ける最初の試練

【2006年7月21日 NASA Features

爆発から20年が過ぎようとしている超新星「SN 1987A」に注目が集まっている。星の内部で生まれた元素がいかにして宇宙空間に放出されていくかを、かつてない近さで見ることができるからだ。最終的には地球のような惑星や生命にもなりうる元素。その旅の始まりは、決して順風満帆と言えるものではなさそうだ。


(SN 1987Aの画像)

チャンドラとジェミニ南望遠鏡で見たSN 1987A。爆発を起こした星の名残は見えていない。クリックで拡大(提供:Gemini/NASA)

超新星爆発が地球の形成や生命の誕生になくてはならなかったことは、今やはっきりとしている(解説参照)。鉄より軽い元素は星の内部の核融合で生まれ、鉄よりも重い元素は超新星爆発のエネルギーで作られたのだ。これらの元素は砂浜の粒よりも小さいダスト(ちり)として宇宙空間のいたるところにちらばっているので、われわれはいやでも観測することになる(多くの場合は奥の天体の光を遮る邪魔者として)。しかし、まだ答えが出ていないことも多い。星は一度にどれだけのダストを生産するのか?超新星爆発はダストにどのような影響を与えるのか?ダストが宇宙空間を旅して、大きなかたまり(すなわち惑星、さらには生命)の一部になるまでのプロセスはどのようなものなのか?

こうした謎を解決するには、超新星爆発の一部始終を観測することが不可欠だ。しかし、人類が望遠鏡という観測手段を発明してから、われわれの近傍で超新星が見つかったことはなかった――1987年にすぐ近くの銀河、大マゼラン雲でSN 1987Aが輝くまでは。当時、世界中の望遠鏡と天文学者の注目がSN 1987Aに向けられていたのは当然だが、今、再びSN 1987Aに関心が寄せられている。ダストの長い旅における最初の「試練」が起きているのだ。

SN 1987Aの周囲には、ダストがリング状に広がっている。これは超新星爆発ではなく、爆発前の恒星内部で起こった核融合で作られたものである。爆発の60万年ほど前に恒星風によって放出されたと見られ、ひじょうにゆっくりと広がっている。この直径1光年ほどのリングに、超新星爆発で生じた衝撃波が迫っている。実はこの衝撃波、物質を遠くへまき散らす一方で、ダストにとってはマイナスにも作用する。高温のガスと衝突することで、ダストの一部が蒸散してしまうのだ。

画像は、SN 1987Aをさまざまな波長で見た姿を重ね合わせたものだ。青はNASAのX線観測衛星チャンドラが捉えたX線画像で、緑と赤は南米チリにあるジェミニ南望遠鏡が撮影した赤外線画像である。超新星爆発で広がる高温のガスはX線、冷たいダストは赤外線で輝く。今まさに両者が入り交じっている様子がよくわかるだろう。

先行していたダストは、ほとんどがケイ素でできていたことがわかった。しかし、その量は予想以上に少なく、かなりのダストが衝撃波により失われたことをうかがわせる。どうやら、「恒星で作られた元素は超新星爆発でまき散らされる」という単純なイメージは必ずしも正しいとはいえなさそうだ。SN 1987Aの爆発から20年近く過ぎたが、「恒星→宇宙空間→惑星・生命」というダストの長い旅はまだ始まったばかりだ。ガスとダストの相互作用はさまざまな波長で目まぐるしく展開している。衝撃波が過ぎ去ったとき、ダストに何が起きているのかは、まだ誰にもわからない。

超新星残骸

46億年前に地球は太陽系の形成と共に円盤状になったガスやチリから誕生したはずだが、地球上に92種類もの元素が存在しているということは、とりもなおさず太陽系を形成することになった原料のガスやちりに、少なくともこれらの元素が含まれていたことになる。これは太陽系ができるはるか以前に、超新星爆発を起こして四散した星があったことを意味している。また、超新星爆発による衝撃波によって生じる星間物質の密度の濃淡も、新たな星の誕生のきっかけになっている。(「宇宙のなぞ研究室」より)