すばる望遠鏡、いびつな原始惑星系円盤を捉える

【2006年6月30日 すばる望遠鏡7月7日更新

すばる望遠鏡による観測で、奇妙な形の円盤を持つ若い星が発見された。複数の波長の赤外線で観測することで、2つの弧が向かい合った形、外に伸びた腕、さらには物質が存在しない「すきま」などの構造が見えた。誕生した星の周りにある物質は単なる円盤ではなく、惑星の存在や近くの恒星との接近によって多様な形をとりうることが明らかにされつつある。


惑星がどのように形成されるかを知るには、「原始惑星系円盤」(解説参照)を調べることが重要だ。しかし、原始惑星系円盤は中心の星に比べて暗いため、観測例は少なく、特に地上からの観測は困難だ。すばる望遠鏡はその性能と周辺技術で見事にこれを克服し、複数の波長の赤外線で原始惑星系円盤の姿を捉えることに成功した。円盤が見つかったのは、地球から650光年の位置にあるHD 142527で、年齢約100万年の恒星だ。近赤外線と中間赤外線で撮影が行われ、様々な構造と性質が明らかにされた。

もはや「円盤」ではない − 2つの弧と1本の腕

(HD 142527の円盤の近赤外線画像)

近赤外線(波長1.65マイクロメートル)によるHD 142527の円盤。中心星はコロナグラフのマスクで隠して観測しているため、黒丸で表示している。右図は向かい合った円弧状の構造を示したもの。画像の上が北、左が東。クリックで拡大(提供:国立天文台)

最初にHD 142527の円盤を見つけたのは、名古屋大学、国立天文台/総合研究大学院大学、神戸大学の研究者からなるグループ。グループは、恒星の光を遮って周辺を観測することができる近赤外線コロナグラフカメラ(CIAO)を使い、1.65マイクロメートルと2.2マイクロメートルの2つの波長で撮影した。

右の画像は1.65マイクロメートルで撮影された画像で、およそ750億キロメートル(太陽−冥王星間距離の10倍以上)にまで広がる円盤の姿がはっきりと捉えられている。特徴的なのは、「円盤」と呼ぶことすらためらわれるほど奇妙な構造だ。全体としてはバナナ状の弧が2つ向かい合った形をしていて、さらに外側に伸びている腕のような構造も見られる。すばるは今までにも「ドーナツ型」や「うずまき型」の原始惑星系円盤を明らかにしてきたが、HD 142527の円盤は今までにない姿だ。

研究グループは、複雑な構造を作り出す要因は内外に存在すると考えている。円盤の内側に中心星以外の天体が存在して重力的に影響を及ぼす一方、円盤の外側を別の星が通過することで物質を引っ張って、腕を作り出したというのである。単独で生まれた太陽系と違って複雑な構造をしているHD 142527の円盤は、連星などのように複数の星が相互作用している環境下でどのように惑星が誕生するのかを知る上で、重要な研究対象になるとのことだ。

惑星形成の証拠?「すきま」を発見

(HD 142527円盤の中赤外線画像)

中間赤外線波長(24.5マイクロメートル)で撮影されたHD 142527の円盤。近赤外線の観測結果を等輝度線として重ねてある(右)。クリックで拡大(提供:国立天文台)

近赤外線による発見を受けて、東京大学、宇宙航空研究開発機構、国立天文台/総合研究大学院大学、茨城大学の研究者からなるグループが、中間赤外線カメラ(COMICS)を使ってHD 142527の円盤を観測した。使われた波長は、18.8および24.5マイクロメートルの赤外線だ。波長が長くなると、空間分解能が落ちるというデメリットがあるものの、近赤外線と違って反射した光ではなく暖められたちりが発する放射を観測することになるため、円盤の温度がわかる。さらに、中心星と円盤の光度の差が小さくなるため、より内側の構造を見ることができるのだ。

中間赤外線の観測からも、新たな特徴が浮かび上がった。半径およそ250億キロメートルの構造(近赤外線で2つの弧として見えた部分)に加え、その内側、中心星からおよそ120億キロメートルの位置(太陽−冥王星の2倍程度)に比較的コンパクトな円盤が見つかったのだ。しかも、間は物質の存在しない、すきまとなっている。惑星が誕生していて、他の粒子を蹴散らしたことでできた構造かもしれない。なお、外側の構造で左側だけが明るく見えているのは、円盤全体が傾いていることで、特に明るく輝く内壁が左側でしかわれわれには見えていないからだと考えられる。

さらに、円盤を構成しているちりの大きさや温度も見積もられた。それによれば、すでにちりは少しずつ成長を始めているとのことである。

今後は、文字通り均一な1枚の円盤として原始惑星系円盤を考えるのではなく、細部の構造まで観測し、その成因を探ることから、原始惑星系円盤の成り立ちと惑星への進化を研究することが重要になりそうだ。

原始惑星系円盤

原始惑星系円盤は、もともと星間ガスが高密度に圧縮されながら回転して円盤状のガス雲となったもので、中央には原始星が形成される。原始惑星系円盤からは、しだいに直径10キロメートルほどの微惑星が形成され、これらが互いに衝突・合体を繰り返しながら、原始惑星へと成長する。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」“太陽系はどのようにして生まれた?”より抜粋)