銀河を料理する方法

【2006年6月23日 Spitzer Press Release

銀河を作る秘伝のレシピを求めて - NASAの赤外線天文衛星スピッツァーの観測などから、銀河が形成されるために必要な材料とその配分が分かってきた。最初にダークマターのかたまりをたっぷり用意するのがポイントだ。


(おたまじゃくし銀河の画像)

今回の研究に使われたスピッツァーの画像から、おたまじゃくし銀河。ULIRGの時代に頻発していた銀河の衝突と爆発的星生成を近傍で見ることができる貴重な銀河だ。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/C. Lonsdale (Caltech/IPAC) and the SWIRE Team)

ご家庭ではお試しいただけないが、天文学者が研究した、銀河を作り上げるための最新のレシピを紹介しよう。

  1. まず大量のダークマターを用意します。
  2. 次にガスを注ぎ込んでください。
  3. 生地をじっくり寝かせましょう。しばらくすれば銀河が浮かび上がってきます。

パンを膨らませて焼き上げるにはイーストが必要なのと同じように、銀河の形成にはダークマター(暗黒物質)がなくてはならないことがわかっている。ダークマターは光を出さないので観測することはできない物質だ。しかし、目に見える物質と同じように質量は持っているので、重力で他の物質をひきつけることになる。イーストは生地を膨らませてパンを形づくるが、ダークマターはガスを収縮させることで銀河を形づくるというわけだ。

米・コーネル大学のDuncan Farrah博士らがスピッツァーで観測したところによれば、ダークマターは必要不可欠なだけではなく、一定量があらかじめ用意されていなければ何も起きないらしい。

博士らは「超光度赤外線銀河(ULIRG)」と呼ばれる銀河をスピッツァーで観測した際のデータに注目した。ULIRGとは主に数十億光年離れた深宇宙に存在する、爆発的に星が生まれていて赤外線で明るく輝く銀河である。ダークマターを直接は観測できなくても、銀河と銀河の間に働く重力を調べられれば、そこから光は見えないが重力を及ぼしている物質、ダークマターがどれだけ存在しているかが分かる。

驚くべき事に、どのULIRGも同じ質量のダークマター、太陽10兆個分に包まれていた。つまり、少なくともULIRGに関して言えば、これが銀河のタネとして最低限必要な量だと考えられる。

しかし、ULIRGが多く存在したかつての宇宙と現在の宇宙では存在する銀河の種類も、その銀河が成長する過程も異なる。ULIRGのレシピで他の銀河を作れるとは限らない。例えば、高エネルギー活動を示すある種の銀河は、太陽4〜5兆個分の質量のダークマターがあれば形成されるらしいことが分かっている。どうやら、宇宙が秘伝のレシピを公開してくれるまで、天文学者はもう少し粘らなければいけないようだ。