巨大銀河団の建設現場に届いた、巨大な建築資材

【2006年6月21日 ESA Space Science

宇宙最大級のガスのかたまりをヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線衛星XMM-ニュートンがとらえた。ガスは銀河団の中に入り込んでいて、猛烈なスピードで進みながら銀河や星の原料をまき散らしている。


(遠方銀河団の画像)

XMM-ニュートンがとらえたガスのかたまり。色はX線のデータを元に計算された、各部におけるエントロピー(乱雑さの度合い)を表す(赤に近いほど低く青に近いほど高い)。クリックで拡大(提供:University of Maryland, Baltimore County (UMBC))

巨大な構造物を作るには資材が必要だが、それは宇宙でも同じ事である。XMM-ニュートンが見た「建設現場」は、地球から2億5000万光年も離れた銀河団、Abell 3266だ。Abell 3266は地球から南半球側の空に見える銀河団としてはもっとも巨大なものの1つで、現在もさらに物質を取り込んで大きくなろうとしている。

XMM-ニュートンのX線データから合成された画像には、巨大な火の玉のようなものが写っている。実際には、これは周囲に広がった1億度に達する銀河間空間の希薄なガスよりも温度の低いガスのかたまりだ。太陽の実に10億倍という質量を持ち、直径は300万光年。秒速750キロメートルでAbell 3266の中を突き進む間に、かたまりからはガスがはぎとられ、後ろには彗星のような尾が形成されている。研究者が見積もったところによれば、はぎとられるガスの量はなんと1時間に太陽1個分という割合だ。

このかたまりは元々Abell 3266の外部にあった、遊離したガスだとみられている。すべてのガスが集まって恒星になれば、銀河が作れるほどの量だ。これだけのガスが1つのかたまりとして存在できるのはなぜだろうか?目に見えない「のり」の役割を果たしているのは、ダークマター(暗黒物質、解説参照)である。同じ事は銀河団の中にあるガスにもいえる。銀河団は単なる銀河の集まりではなく、間に希薄ながら高温のガスが存在しているが、そのガスをとどめているのがダークマターと考えられているのだ。かたまりを維持していたダークマターと銀河団を構成する銀河やダークマターとの間で「重力の綱引き」が行われている真っ最中だが、銀河団の方が引く力が強いので、ガスは次々と引きずり出されることだろう。

予測によれば、現在ガスのかたまりはAbell 3266の中心部に向かって進んでいるが、そこでは巨大な楕円銀河が形成されつつある。かたまりの中のガスも数十億年後には、完成した宇宙最大級の銀河団の中で輝く恒星となっているだろう、とのことだ。

ダークマター

宇宙には光を出している天体だけが存在しているわけではない。実際、銀河団中の銀河の運動を分析すると、光っている物質だけでは見合わない大きな重力場の存在が推定され、光らない物質、すなわちダークマターに起因するものではないかとされる。その量は光っている物質の10倍以上にもおよぶとされ、その総質量が宇宙の平均密度に影響し、宇宙膨張の推移、さらには宇宙年齢の推定に直接に効いてくるため、観測宇宙論の重要なテーマともなっている。現在もその正体は不明である。(「最新デジタル宇宙大百科」より)