2つの星雲と2つの恒星の物語

【2006年6月12日 Gemini Observatory

南米・チリにあるジェミニ南望遠鏡が、南天に光る2つの星雲を捉えた。どちらも「S」の字を逆さまにした形が特徴だが、星雲を作り出した恒星の実像は対照的だ。星雲として残された、星たちの「ダイイング・メッセージ」を読み解くことに、天文学者たちは取り組んでいる。


巨大な星の太く短い一生

(輝線星雲NGC 6164-5の画像)

輝線星雲NGC 6164-5。真北から反時計回り4度方向が下、東は右側、写野5.8'×5.5'。3色の可視光フィルターで撮影。クリックで拡大(提供:Travis Rector University of Alaska Anchorage)

1つ目の星雲は、じょうぎ座の方向、太陽から4200光年離れたところにあるNGC 6164-5。4.2光年にもわたって広がるガスは、中心で輝く恒星HD 148937が放出したものだ。この恒星は太陽の40倍もの質量を持っているため、核融合のペースが速く、ひじょうに明るく輝くのと引き替えに、すぐに寿命を迎える運命にある。HD 148937が誕生してから300〜400万年が経っているが、すでに生涯の半ばにある。さらに同じだけの時間が経過した後には、超新星爆発と共に恒星としての一生を終えるだろう。

HD 148937のような巨大な星の最期は劇的だが、そこに至るまでの生涯も決して安定したものとはならない。ばく大なエネルギーを生産し続けるため外層は不安定になり、絶え間なく恒星風として放出され続けることになる。こうして宇宙空間にばらまかれたガスが、HD 148937からの紫外線を吸収して可視光で輝いているのが、NGC 6164-5なのだ。

星雲の中には渦や空洞といった複雑な構造が見られる。そのメカニズムとしては、HD 148937が自転しながら(スプリンクラーが庭やグラウンドに水をまくときのように)ガスを放出しているとする説があるほか、星の周りの磁場が一役買っているかもしれないというものもある。また、星雲の外縁部には彗星のように尾を引く構造があるが、これはらせん状星雲などの惑星状星雲にも見られるもので、高速で吹き出した恒星風が周りのガスに衝突することで形成されていると考えられている。

長く平凡な生涯の果てに

(惑星状星雲NGC 5189の画像)

惑星状星雲NGC 5189。北が上、東が左、写野は5'×5'。3色の可視光フィルターで撮影。クリックで拡大(提供:Travis Rector University of Alaska Anchorage)

ガスを周囲にばらまくのはHD 148937のように巨大で不安定な恒星だけではない。あらゆる恒星がいつかたどることになる道なのだ。そう、太陽のような恒星でも。

太陽質量程度の恒星は、100億年間輝き続けた後、赤色巨星となって大きく膨張する。やがて外層は恒星風として周囲の宇宙空間へ飛び散ってしまい、中心部に残った白色矮星に照らされる「惑星状星雲」となるのだ。

惑星状星雲NGC 5189も、太陽のように平凡な恒星、HD 117622から放出されたガスだ。はえ座の方向、1800光年先にある。恒星風は秒速2700キロメートルで吹き出していて、周囲のガスと衝突した部分には彗星のような構造ができているが、これはあらゆる惑星状星雲に見られる特徴だ。基本的には恒星HD 117622も惑星状星雲NGC 5189も、平凡な天体なのである。

しかし、誰もが一目で「逆Sの字形」の筋模様に気づくだろう。この構造は広がってから形成されたというよりも、最初にガスが放出される段階で何かが作用してできたと思われる。HD 117622が、どこかしらひねくれていたというわけだ。ある科学者によれば、HD 117622に伴星があり、歳差運動で軌道がずれていくにつれ、ガスの広がり方も変化したことが「逆Sの字形」模様として見えているらしい。