土星の衛星・エンケラドスはひっくり返ったことがある?

【2006年6月8日 JPL News Release

土星の衛星・エンケラドスの一番暖かい部分は南極地方だが、これは衛星全体が文字通りひっくり返った結果かもしれない。かつて「土星でもっとも冷たい衛星」と言われたエンケラドスで一部の地方だけが活発な地質活動を示し、しかもそれが南極であることを説明できる仮説を、アメリカの研究者たちが発表した。


(エンケラドス内部のイメージ)

エンケラドス内部の模式図。暖められた物質が氷の外層(黄色)や岩石のコア(オレンジ)から表面に向かって上昇し、衛星をひっくり返す原因を作ったかもしれない。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Space Science Institute)

「太陽系でもっとも明るい天体」と言われるほど、エンケラドスは全体が反射率の高い氷で覆われた冷たい天体だ。ところがNASAの探査機カッシーニからは驚くべき情報がもたらされていた。エンケラドスの南極は周囲よりも温度が高く、火山活動が起きていて、「タイガーストライプ(虎縞)」と呼ばれるひび割れからは新鮮な氷が吹き出していたのだ。その結果としてエンケラドスは大気を持っていて、液体の水が存在する可能性もある。なぜエンケラドスで一番暖かい部分が、他ではなく、南極にあるのだろうか?

エンケラドスの熱源は、土星から受ける潮汐力とみられる。エンケラドスは土星に近く、楕円形の軌道を回るので、土星の重力により内部が引っ張られたり縮められたりを繰り返すことで暖められているというわけだ。しかし、その影響が赤道地方ではなく南極に現れるとは思えない。そこで大胆にも、別のところが暖かくなった後、衛星全体がひっくり返ってそこが南極になってしまったという説が登場した。

惑星や衛星のように自転する天体は、赤道に質量が集まっていた方が安定する。そのため、自転中に内部の質量分布が変わってしまうと、重くなった部分が赤道方向に、軽くなった部分が極地方に来るように、天体全体が向きを変えると考えられる。これがまさにエンケラドスで起きたというのだ。

物質は温度が高くなると膨張し、結果として密度が小さくなる。エンケラドス内部の深いところで暖められた物質にも同じ事が起き、周囲よりも軽くなって上昇することになっただろう。こうして、エンケラドス全体のバランスが崩れ、自転軸が動くことになるが、計算によれば、最大で30度も回転することができるという。また、暖かいかたまりが地表付近まで上昇することで、表面で活発な地質活動が起きていることも説明できる。

カッシーニが訪れる前と後で、科学者のエンケラドスに対する見方は大きくひっくり返されてしまった。その上、衛星自体もひっくり返ったことがあるのだろうか。さらなる証拠は、次にカッシーニがエンケラドスに接近する2008年まで待たねばならない。