マーズ・エクスプレスが捉えた、火星の立体的な表情

【2006年6月1日 ESA News (1)(2)(3)

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星探査衛星マーズ・エクスプレスの活躍がめざましい。なかでも、HRSC(高解像度ステレオカメラ)で得られる3D画像は、科学的な意義はもちろん眺めているだけでも面白い。その中から最新の画像を3枚紹介しよう。


確かな水の痕跡

(ナネディ峡谷の画像)

ナネディ峡谷。画像右が北の方向。クリックで拡大(以下同)(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

火星の地形といえばまず思い浮かぶのが水の流れた跡。この「ナネディ峡谷」もそうした地形の1つだ。表面を水が流れたのか、地下水路が陥没したのかで議論が続いているが、突発的な洪水ではなく継続的に水が流れていたことは確かなようだ。

峡谷の長さは800キロメートルほどで、幅は0.8〜5キロメートル。最大で500メートルの深さという、水がえぐり出した地形が、HRSCによって克明に浮かび上がった。

溶岩チューブ

(斜めから見た溶岩チューブの画像)

パボニス山のすそ野を走る、溶岩チューブの陥没跡(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

火星の表面を流れて痕跡を残したのは水だけではない。溶岩もまた、火星の歴史を地面に刻んでいる。

この画像は標高12キロメートルの火山、パボニス山のすそ野を撮影したものだ。上から下へ走る印象的な溝は、「溶岩チューブ」とみられる。溶岩が地面を流れる際に、表面が冷えて固まり、その下を熱い溶岩流が地下水路のように通ることがある。溶岩流が止まり、残されるのが溶岩チューブだが、多くの場合表面が陥没して、えぐれたような地形が残る。似たような地形は地球や月にも見られる。

他の火星の火山がそうであるように、パボニス山はひじょうにゆるやかで、そのため溶岩チューブも長い。中には、59キロメートル以上伸びているものもあるようだ。

「にっこり」クレーター

(ガレ・クレーターの画像)

ガレ・クレーター。画像上が北の方向(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

1976年に火星に着陸した探査機「バイキング1号」は、火星で生命を発見することはできなかったが、満面の笑みを浮かべた顔を見つけることができた。笑顔の正体は、「ガレ」と名付けられた直径230キロメートルのクレーターだ。

マーズ・エクスプレスが何度も周回しながら得たガレの全景には、発見当時と変わらぬ笑顔とともに、火星の細かな「表情」が写り込んでいる。

もっとも目立つのは、風により作り出された地形だ。砂丘が見られる他、表面の明るい色の砂が吹き飛ばされ黒い「地肌」が見えている部分がある。

もちろん、水の痕跡も見つかっている。水が流れてできたと見られる小さな溝がところどころにあるほか、クレーターの南側には幾層にも重なった堆積物で形成された露頭も存在する。


この他にもHRSCで撮影された画像は数が多く、ここではとてもすべてを紹介しきれない。マーズ・エクスプレスの公式ページには数多くの画像や動画が用意されている。また、弊社発行のスペースガイド宇宙年鑑2006ではマーズ・エクスプレスの特集を組み、十数点のカラー画像を解説と共に掲載しているので、興味のある方はご覧いただきたい。