月面衝突発光をNASAが継続観測する理由

【2006年1月16日 Science@NASA

NASAの研究者が、流星体の月面衝突による発光を捉えるためのシステムを立ち上げ、さっそく観測に成功した。これまでにも、同様の月面発光は、大きな流星群のたびに観察されており、もはや目新しい現象ではない。しかし、このプロジェクトが始まった背景には、NASAの重大な方針転換がある。


(流星体の衝突した場所(赤いマル))

流星体の衝突した場所(赤いマル)。クリックで拡大(提供:NASA/MSFC/Bill Cooke.)

2005年11月7日、NASAマーシャル・スペース・センターのサッグス研究員らによって、月面をモニターし続けるための望遠鏡とビデオカメラが設置された。その初日に、いきなり爆発が捉えられたのは、ちょっとした衝撃だった。

地球から38万4400キロメートルのかなたで起きたこの現象は、「ちょっとした衝撃」どころではない。直径たった12センチメートルと推定される小天体が、「雨の海」の縁の方に衝突して起こした爆発は、TNT火薬70キログラム分に相当するエネルギーだった。衝突した微少天体は、10月末から11月始めにかけて観測される「おうし座流星群」の流星体と考えられている。「流星」と言えば、天球上で輝きながら流れて、消えていくものだ。流星体との遭遇が「流星」となるのは、地球に大気があるからで、高速で飛び込んできた流星体は大気と反応して消滅してしまう。流星体を遮る大気がない月では、流星体はそのままの大きさ、そのままのスピードで月面に衝突するわけだ。つまり、月面では「流星」現象を見ることはできない。

今回観測された爆発は、星で言えば7等級に相当し、肉眼では見られないが、小さな望遠鏡でも簡単に見える明るさだった。一方、この衝突でできたクレーターを見ることはほぼ不可能だ。爆発によってできたと考えられるクレーターは、直径3メートル、深さ40センチほどと計算されているが、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の目をもってしても、月面では60メートルの大きさを見分けるのがやっとだからだ。

流星体の月面衝突が観測されたのは、これが初めてではない。特に、1999年や2001年のしし座流星群の際には、3等級から7等級にわたる数々の爆発が、プロの天文学者や、アマチュアによって観測された。もはや月面衝突発光の観測は「流行が終わった」状態で、これから観測しようという天文学者はほとんどいない状況だった。では、なぜNASAは今ごろになって月を眺めているのであろうか?

NASAが2018年までに人類を再び月に送ろうと決めた今こそ、月を見なければいけないのです」とサッグス研究員は語る。月面で人間が長期間活動を行うとなれば、数々の疑問を解消しておかなければいけない。どれくらいの頻度で隕石や流星体が降ってくるのだろう? そして、おうし座流星群のような、流星群の活動時期以外でもその衝突の可能性はあるだろうか?

おそらく、宇宙飛行士を隕石や流星体が直撃する可能性はかなり低い。しかし、観測例が少なく正確な確率は見積もれないので、予断を許さない状況だ。また、宇宙飛行士のような小さな的ならまだしも、月面基地のように長期間、月面全体にわたって人類が活動するとなると、無視できない確率になるかもしれない。

そして何よりも問題なのは、衝突そのものよりも、「二次災害」だ。衝突によって巻き上げられた岩石は、再び月面上に降り注ぐことになる。また、巻き上げられたちりが宇宙服のすき間に入り込んだり、月面で活動する人間の健康に害を及ぼすという指摘もある(ニュース「おそろしい月の砂ぼこりにご用心」参照)。

今後は、流星群の時期以外も含め、長期にわたって月面観測が行われる。また、発光を自動的に検出するシステムを導入することによって、数多くの月面発光を捉える予定であるとのことだ。実際の観測は機械任せでも、再び人類が月面に降り立つ日まで、NASAは月に熱い視線を注ぎ続けていくことになる。