日本のグループが世界最高レベルで捉えた、超巨大ブラックホールからの銀河風

【2005年8月15日 京都大学理学研究科宇宙物理学教室

京都大大学院理学研究科の菅井肇助手らの研究グループでは、超巨大ブラックホールからガスが高速で噴き出している「銀河風」と呼ばれる現象を世界最高レベルで捉えることに成功した。

(楕円銀河NGC 1052の活動銀河中心核からのガスの流れ)

楕円銀河NGC 1052の活動銀河中心核からのガスの流れ。クリックで拡大(提供:京都大学理学研究科宇宙物理学教室プレスリリースページより)

超巨大ブラックホールからの銀河風が観測されたのは、われわれから6千万光年の距離にあるくじら座の方角にあるNGC 1052という近傍銀河の中心部だ。銀河風と呼ばれる銀河からガスが吹き出すこの現象は、最近重要視されている。というのも、宇宙が銀河を形成し始めた100億年以上も前から銀河の進化に重要な役割を担ってきたことが示唆されており、人間を作っている元素の形成史やそのばらまき方にも影響を及ぼすと考えられているためだ。今回の観測結果は、これらの研究にとって貴重なデータを提供することとなった。

銀河風とは大きく2つに分けられる。一つは、爆発的な星の集団形成に伴うもの、もう一つは銀河中心に存在すると考えられている超巨大ブラックホールの活動(活動銀河中心核)に伴うものだ。同研究グループでは、その中でもより謎が多いとされる活動銀河中心核に伴う銀河風をとらえることに成功し、さらにその構造までも明らかにした。銀河風はとても淡く、観測もひじょうに困難なのだが、すばる望遠鏡の高い解像度と京都三次元分光器第2号機との組み合わせによって観測を実現させた。

このユニークな観測方法で捉えられたのは、超巨大ブラックホール周辺から双極円錐状に噴き出している銀河風。その吹き出しと周りに残っているガスとが激しく衝突する現場で銀河風ガスのなかには 毎秒千キロメートルを越える非常に高速で動いているものがあることも明らかにしたのだ。さらに、活動銀河中心核が発生し、周囲に影響を及ぼしていく、まさにその「瞬間をとらえた観測結果」で、活動銀河中心核における銀河風の起源に迫る上での貴重なデータとなっている。


活動銀河(核): 略号AGN。中心核から異常に強力な放射が観測される銀河の総称。これら活動銀河のエネルギー発生機構については謎の部分が多いが、多くは中心に巨大ブラックホールが存在し、これに流れ込む星間ガスの位置エネルギーの解放と、それに起因する爆発的エネルギー放出の結果ではないかと考えられている。(最新デジタル宇宙大百科より