高感度赤外線撮像で捉えた最も深い宇宙 〜すばる望遠鏡が鮮明に写し出した遠方銀河の姿〜

【2005年8月2日 東京大学理学系研究科プレスリリース

東京大学、京都大学、国立天文台、ハワイ大学の研究者からなるグループが、すばる望遠鏡が重点的に観測をすすめている「すばるディープフィールド」と呼ばれる領域を高感度赤外線撮像を行い、ハッブル宇宙望遠鏡を凌ぎ、赤外線波長では最も鮮明に遠方銀河を捉えることに成功した。

(すばる望遠鏡で重点的に観測が行われている「Subaru Deep Field」と、 研究グループが観測した「Subaru Super Deep Field」の位置関係。右端の図が今回取得した世界最高感度の赤外線画像)

すばる望遠鏡で重点的に観測が行われている「Subaru Deep Field」と、 研究グループが観測した「Subaru Super Deep Field」の位置関係。右端の図が今回取得した世界最高感度の赤外線画像。クリックで拡大(提供:東京大学理学系研究科プレスリリースページより)

赤外線波長での深い撮像観測が重要となる遠方宇宙の探査は、日本のすばる望遠鏡をはじめとする大型望遠鏡が地上から観測を行ってきたが、地球大気の揺らぎにより影響を受け、遠方銀河の検出感度、またその構造を探るために必要な空間分解能でも、既に限界に到達していた。

そこで、東京大学、京都大学、国立天文台、ハワイ大学の研究者からなるグループでは、地上望遠鏡による観測の限界を引き上げるため、地球大気による光の波面の揺らぎを補正する「補償光学(Adaptive Optics; AO)」という技術に着目した。補償光学装置を用いることで、観測される星像はシャープになるため、空間解像度が良くなり、天体の繊細な構造を見分けることができるようになったのだ。また、星像のピーク値が高くなるため、暗い天体の検出感度を大幅に向上させることも可能となった。補償光学の観測には、乱れた波面を測るために明るい参照星が必要となるのだが、研究グループでは、遠方銀河系の円盤と垂直な方向で、補償光学で波面が測定できる明るい星がある領域を選び、この装置による遠方宇宙の深い撮像観測という手法を世界で初めて試みた。

研究グループでは、得られた最も深い赤外線画像をもとに、遠方宇宙における銀河の個数密度を調べ結果、銀河の見かけの明るさに対する銀河の個数密度の増加率が、22等級より暗い最暗部において緩やかになることを明らかにした。この事から、遠方宇宙においても、銀河の個数密度は約100億年前と現在では大きく変わらず、この年代からの銀河は大きな衝突・合体を頻繁に行うことはなく静的に進化していったことが示された。さらにこれまでは、24等級より暗い所に、現在の銀河の種となるような小さい銀河や、近傍にある非常に暗い銀河の様な特異な銀河がたくさん存在する可能性が示唆されていたが、研究グループの観測結果により、これらのシナリオは棄却されることとなった。

また、これまでハッブル宇宙望遠鏡で得られた可視光の撮像データでは、80億年前までの銀河の形態は、現在の銀河の形とは大きく異なっていないことが明らかになっていた。しかし、今回の赤外線撮像で得られた100億年前の銀河には、現在のものとは異なる不規則な形をしたものが見られる。この様な過去の不規則な形をした銀河から、どのようにして現在あるような銀河の形が作られたかの過程を明らかにすることが今後の課題だ。


赤外線天文学: 波長100μm程度までの、可視光より長い波長を持った赤外線を用いて観測する分野。赤外線天文学の観測対象はさまざまだが、可視光に比べて星間吸収の影響が少なく、冷たい天体の観測が得意で、原始星や星間塵(じん=ダスト)の熱放射など、赤外線ならではの対象も数多い。ふつう地球大気の影響を受けるので、赤外線全域の観測を行うために、飛行機、気球、観測ロケット、人工衛星などさまざまな手段が用いられる。ハワイ・マウナケア山頂に建設された「すばる望遠鏡」は近赤外波長域をカバーする望遠鏡でもある。(最新デジタル宇宙大百科より