火星接近を巡る噂と真相

【2005年7月27日 Science@NASA

アメリカでは、火星について様々な噂が飛び交っているようだ。たとえば、「赤い惑星による注目すべき現象が起こる」、「8月27日にまるで満月のような大きさの火星が現れる」、「火星と地球の歴史がはじまって以来の最接近」、「今生きている人は、2度と見られない現象」などだ。この中で唯一正しい内容は、一つ目の情報だけだ。しかし、本年も2003年の大接近時と変わらない美しい火星を見ることができるのでご安心を。

(2003年8月26日の火星(人影は、フラッシュライトで緑色に着色したもの))

2003年8月26日の火星(人影は、フラッシュライトで緑色に着色したもの)。クリックで拡大(提供:Thad V'Soske)

アメリカで、最近火星について多くの人が大騒ぎしているらしい。1938年にラジオドラマ「宇宙戦争」が放映されたときに、本当に火星人がアメリカを襲撃したのだと勘違いして多くの市民がパニックに陥った話は有名だが、ひょっとして今年、「宇宙戦争」の新しい映画が封切りされたせいで…?

いやいや、真相は、「火星が8月27日に地球に大接近し、今後一生見られないほどの大きさになる」という内容のスパムメールが、今年の5月頃流れたからだ。このメール、二年前なら正しい内容だった。2003年の8月27日に、火星は観測史上もっとも地球に接近したのであり、次に同じだけの距離接近するのは2287年と計算されているからである。

今年の10月30日に、火星は再び地球に接近する。しかし、2003年に比べると少しだけ遠い距離だ。それにもかかわらず、スパムメールなどから広まった噂はどんどん大きくなり、「火星と月が同じ大きさになる」といった話まででている。ほとんどがデマだが、残念に思うことはない。2年前よりは遠いと言っても、地球から見た火星の明るさはそう大きくは違わず、夜空に赤く輝く星が目立つことには変わりない。

2年前の2003年8月27日に、地球・火星間の距離は5600万キロメートルだった。今年の最接近時の地球から火星までの距離は6900万キロメートルで、そのサイズは月に比べればはるかに小さいが、裸眼でも火星は空に浮かぶまぶしい赤い点として見える。そのとき、太陽と月と金星を除けば、空には火星より明るく輝く星は存在しない。

10月の最接近までにはまだ数ヶ月あるが、すでに火星は早朝にはっきりとその姿を見せている。太陽が昇るまでの東の空で、もっとも明るく目を引くのが火星だ。もしも天体望遠鏡をお持ちなら、南極の氷や表面の薄暗い模様を見ることができる。


火星が2年2ヶ月ぶりに最接近: 2年2ヶ月ぶりの接近で、前回よりは地球との間に距離があり、見かけも20.2秒角といくぶん小さい。しかし、これとて火星の大きさとしてはかなり大きい方なので、小望遠鏡でも表面のようすが思いのほかよく見え、観測の興味もわいてくることだろう。(「AstroGuide 星空年鑑 2005」 10月の星空より)