エウロパには生命が存在し得る環境がある?

【2001年6月18日 Spaceflight Now / SETI Institute News Release (2001.06.15)

Christopher Chyba氏 (SETI Institute) とKevin Hand氏 (スタンフォード大学) が、エウロパをはじめとする木星の衛星に、生命が存在し得る環境があり得るとする論文をまとめ、6月15日発行の科学誌『Science』において発表した。

NASAの木星探査機ガリレオの観測により、木星の四大衛星のうち、イオを除くエウロパ、ガニメデ、カリストには、厚い氷の層の下に海が存在する可能性が高いことが明らかになってきている。液体の水は生命が存在するための前提条件と考えられているが、もちろんそれだけでは充分ではない。生命の存在のためには、生命活動のためのエネルギー源が供給される必要がある。

Chyba氏とHand氏によると、通常、生命のエネルギー源は、酸化還元反応と呼ばれる科学反応だという。これは例えば、炭素と酸素が結合して電子を共有するようになる際、エネルギーが放出されるというものだ。酸化還元反応に必要な酸化剤は、地球においては、光合成により生成される酸素分子 (O2) が大部分を占める。しかし、木星の3つの衛星では、海はたとえ存在するとしても厚い氷の層に閉ざされているため、太陽光が届かない。光合成は不可能である。したがって、光合成以外に酸化剤の供給源を求めなくてはならない。

そこで両氏が注目したのは、これらの衛星に降り注ぐ荷電粒子の雨である。これらの衛星の軌道には、木星の磁気圏に捕われ、そこで加速された高速の荷電粒子が渦巻いており、それらは衛星の表面に絶えず降り注いでいる。そして、荷電粒子が衛星表面の氷に激突した際には、酸素分子 (O2) や過酸化水素 (H2O2) といった酸化剤が生成されるというわけだ。そして衛星表面で生成されたこれらの酸化剤が地下の海にまで達することができれば、生命活動に必要なエネルギーを担うことができる。

しかし、衛星表面で生成された酸化剤が地下の海にまで達することができる可能性については、「現時点では何ともいえません。たとえ、地質学的なスケールでの時間経過を考慮したとしてもです。」とChyba氏は警告している。ところが、「たとえそれが不可能であっても、海に酸素分子を供給する別のメカニズムが存在し得ます。」とChyba氏は続ける。

そのような供給源のひとつが、カリウムの放射性同位体であるカリウム40だという。これは、氷の層にも、地下の海にも存在する。そして、カリウム40が放射崩壊する際、水分子が分解されて、酸素分子が生成されるというわけだ。このメカニズムにより生成され得る酸化剤は、地表で荷電粒子の衝突により生成され得る酸化剤より少ないが、生命環境を維持することは可能だろうということだ。

「もちろん、それらの衛星に生命が存在するかどうかはわかりません。でも、少なくとも言えることは、もしそこに海が存在するのであれば、生命活動のためのエネルギー源となる化合物も存在する可能性が高いということです。」Chyba氏は力を込めてこう語った。

<関連ニュース>