[観測ガイド] SOHOの観測画像で宇都宮-ジョーンズ彗星を見よう!

【2000年12月30日 アストロアーツ】

熊本県の小林寿郎さんの報告によると、宇都宮-ジョーンズ彗星 (C/2000 W1) が太陽観測探査機SOHO (NASA/ヨーロッパ宇宙機関の共同) の広角分光コロナグラフ LASCO C3 の観測画像に見えている。年明けの1月4日の昼頃までは見えているので、ぜひ探してみてほしい。

LASCO/C3に見られる宇都宮-ジョーンズ彗星

画像右は、世界時12月30日午前6時42分 (日本時間15時42分) のLASCO C3の観測画像 (一部) 。左は、ステラナビゲータ5により作成した同時刻の星図。宇都宮-ジョーンズ彗星は、観測画像の左上に見えている。左上に向かって淡い尾を伸ばした姿がわかる。現在、同彗星はLASCO C3の視野内を右側に向かって移動しつつある。

◎LASCO C3の最新画像から宇都宮-ジョーンズ彗星を探してみよう!

まず、LASCO C3の最新画像を手に入れよう。SOHOのホームページの左側のメニューから [Latest Images] ⇒ [Real time images] とクリックすると、各種観測機器の最新画像のプレビュー画像が並んだページに辿りつく。ここでプレビュー画像をクリックすると、より大きな画像が見られるが、それは最大解像度のものではないため、彗星の確認は困難だ。彗星の確認に適した最大解像度の最新画像を得るには、LASCO C3のプレビュー画像の下部にある [1024×768] をクリックし、"List of individual images:"というリストから最も上にあるものをクリックすればOKだ。このリストの数時は、画像が撮影された日時 (世界時) を表している。

次に、得た観測画像から宇都宮-ジョーンズ彗星を探すには、比較用の星図を用意する必要があるが、それにはステラナビゲータ5が威力を発揮する。

星図を作るためには、まずは宇都宮-ジョーンズ彗星の軌道要素のデータをステラナビゲータ5に登録する必要がある。次のページにて、最新の軌道要素のデータが手に入るので、各自入力してほしい。

このページの上部に記載されているのが軌道要素だ。ステラナビゲータ5の [天体] ⇒ [彗星] ⇒ [新規] で軌道要素を入力しよう。この "軌道要素編集ダイアログ"において入力すべき要素は次のとおり。

  T:     近日点通過時刻
  q:     近日点距離
  Peri.: 近日点引数
  Node:  昇交点黄経
  Incl.: 軌道傾斜角
  e:     離心率

この他、認識符号 (C/2000 W1) や名前 (宇都宮-ジョーンズ/Utsunomiya-Jones) も入力しよう。あとは、表示彗星一覧に「宇都宮-ジョーンズ」を登録すればOKだ。非表示彗星一覧から「宇都宮-ジョーンズ」を選択して [↑] をクリックしよう。

あとは、LASCO C3の観測画像に近い星図を得るための各種設定を行なう。手順は次のとおり。

  1. 座標系を赤道座標または黄道座標に設定する。
  2. 太陽を追尾 (トラック) させる。太陽をクリックして太陽の天体情報パレットを表示させ [トラック] ボタンを押すか、[CTRL] + [SPACE] を押してコマンド入力ダイアログを表示させ、"TRACK SUN" と入力する。(コマンド入力の場合、入力後に星図ウィンドウサイズを変更するなどしていったん再描画させる必要がある。)
  3. 恒星の表示等級を9.0程度までに固定する。
  4. 18.3度の視野円を表示させ、視野円の中心を太陽に合わせる。
  5. 表示範囲を17度に設定する。
  6. 星図ウインドウをほぼ正方形にする。

そして、時刻を画像が撮影された時刻に設定すればできあがりだ。この際、世界時/日本時を間違えないように注意しよう。これで、LASCO C3の観測画像にかなり近い星図が完成したはずだ。これを星図ファイルとして保存しておけばあとで便利だろう。

あとは、星図と観測画像を比較しながら宇都宮-ジョーンズ彗星を探そう。このとき、どうしても見つからなければ、最新のひとつ前の画像も入手して、彗星があると思われるところの付近に移動する天体が無いか探してみるのも手だ。画像処理ソフトが使えれば、2つの画像を背景の恒星を基準にして合成してみるとよいだろう。また、ステライメージ3であれば、ブリンクコンパレータという機能が便利だ。これは、2つの画像を交互に表示させるもので、シンプルな機能ではあるが、移動天体の検出に威力を発揮する。

ところで、作成した星図は観測画像とは多少異なったものになってしまう。この最大の理由は、SOHOが地球から太陽の方向に約150万キロメートル (地球〜月間距離の4倍近く、地球〜太陽間距離の約1%) ほど移動したところにあるL1ラグランジュ点と呼ばれる地点に位置しているためだ。だが、ステラナビゲータ5で設定できる観測地点は地球上のみであるため、多少の視差が生じてしまうわけである。

ちなみに、この地球〜太陽間のL1ラグランジュ点では、地球および月の重力と太陽の重力、そして公転による遠心力が特別な関係にあり、そこにある小さな物体は、地球より内側の軌道を、地球の公転と同期して巡ることになる。したがって、SOHOは地球や月に視野を遮られることなく24時間連続して太陽を観測しつづけることができるというわけだ。

また、LASCO C3の観測画像は太陽面の北極方向が上になるようになっている。このため、ステラナビゲータ5の赤道座標モードおよび黄道座標モードで作成された星図はLASCO C3の観測画像と比べて少し回転したものになってしまっているので、注意してほしい。

さらに、彗星の軌道要素に含まれる誤差も問題となる。彗星の軌道を正確に求めるためには、ひじょうに多数の観測が必要となるが、宇都宮-ジョーンズ彗星の発見は11月18日と最近のことであるため、まだ充分な観測がなされていないのである。