ハッブル宇宙望遠鏡最新画像集 (3件)

【2000年12月28日 ハッブル宇宙望遠鏡・最新画像

NASAのハッブル宇宙望遠鏡 (HST) による最新画像を3件紹介する。高解像度画像については、それぞれの画像のリソース (STScI-PRC**-**) のリンク先を参照してほしい。


HSTがとらえたIC349

プレアデス星団に潜む幽霊

STScI-PRC00-36 (2000.12.6)

この不気味な画像は、M45 プレアデス星団 (日本名=すばる) を構成する星のひとつ「メローぺ」のごく近くにある星雲「IC349 バーナードのメローぺ星雲」(1890年にアメリカの天文学者バーナードが発見) を強拡大撮影したものだ。この星雲は、冷たいガスと塵から成り、自らは光を放たず、メローぺからの光を反射して輝いている。このように、恒星の光を反射して輝いている星雲を反射星雲という。

プレアデス星団は、約380光年の距離にある誕生から5,000万年程度のとても若い星の集まりで、「おうし座」の肩の部分にあたり、肉眼でも容易に確認できる。並程度の視力の人であれば、肉眼で6〜7個の星を確認することができる。このため、ギリシア神話に登場する7人姉妹「プレアデス」にちなんでこう呼ばれている。

多くの場合、若い星団を取り巻く星雲は、星団の原料の残余物である。しかし、プレアデス星団に見られる星雲は、実は星団の生成とは関係ない独立した星間ガスが、偶然にも星団と高速で交差しつつあるものである。IC349の場合、メローぺとの相対速度は毎秒約11キロメートルにも達する。

IC349は、プレアデス星団を取り巻く淡い星雲の中では最も明るい部分である。なぜなら、IC349は星団の中でも最も明るい星のひとつであるメローぺからわずか0.06光年 (太陽〜地球間平均距離のおよそ3,500倍) という至近距離にあるためだ。

この画像では、メローぺは視野の上辺右側のすぐ外に位置する。上辺右側から延びるカラフルな直線状の筋は、メローぺからの光が望遠鏡の光学系により散乱されて生じているものであり、現実のものではない。だが、星雲から右上に延びる筋は現実のものであり、HSTの優れた解像力により今回初めて発見された構造である。

今回この観測を行なったGeorge Herbig氏とTheodore Simon氏 (ともにハワイ大学) によると、星雲がメローぺに接近するにつれ、メローぺからの強い光が星雲を構成する塵の接近速度を弱める。この現象は、「放射圧 (radiation pressure)」と呼ばれるものである。この際、小さな塵は大きな塵に比べて大きく減速される。したがって、IC349の構造は、小さな塵は接近を阻まれて左下にかたまり、大きな塵が右上へ向かう筋を形成しているのではないかという。

今後2000〜3000年のうちにIC349がメローぺとの接近により完全に破壊されることが無ければ、IC349はメローぺと交差することになる。このめずらしい現象は、恒星間物質やその構造についてより多くを知るための良いチャンスとなるだろう。

1999年9月19日、広視野/惑星カメラ2による撮影。露光時間は18.3分。

Image Credit: NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)

Acknowledgment: George Herbig and Theodore Simon (Institute for Astronomy, University of Hawaii)


HSTがとらえたコンパス座銀河

特異かつ強力な活動銀河=コンパス座銀河

STScI-PRC00-37 (2000.11.30)

これは、コンパス座の方向約1300万光年の距離に位置する「コンパス座銀河」の姿だ。この銀河は、セイファート銀河と呼ばれる特異銀河のひとつである。セイファート銀河は、渦巻き状の構造で、小さな明るい中心核を持つ。この中心核は活動銀河核 (Active Galactic Nuclei; AGN) と呼ばれるものの一種であり、スペクトルは高エネルギー活動を示唆し、そこには巨大ブラックホールが潜むと考えられている。

コンパス座銀河内のガスは、2つの赤いリング状の構造に集中して存在している。外側のリングは、視野いっぱいに広がっているもので、直径は約1300光年。このリングの存在は地上望遠鏡による観測により以前から知られてきた。内側のリングは、画像中央部付近に赤みを与えているもので、直径は約260光年である。こちらのリングは、今回HSTにより初めて検出されたものだ。これらのリングは、大量のガスと塵を含み、爆発的な星生成がなされている領域である。

画像上方に向かって延びている紫色のガスは、銀河中心のブラックホールから超高速で吹き出されたものである。銀河中心のブラックホールに周囲の物質が落ち込む際、その一部はブラックホールの強力な磁力線に沿って両極方向に流れこみ、両極方向から超高速で吹き出すジェットとなる。

1999年4月10日、広視野/惑星カメラ2による撮影。露光時間は約1時間。

Credit: NASA, Andrew S. Wilson (University of Maryland); Patrick L. Shopbell (Caltech); Chris Simpson (Subaru Telescope); Thaisa Storchi-Bergmann and F. K. B. Barbosa (UFRGS, Brazil); and Martin J. Ward (University of Leicester, U.K.)


HSTが紫外線でとらえた木星のオーロラ

木星のオーロラ

STScI-PRC00-38 (2000.12.14)

これは、HSTが紫外線でとらえた木星のオーロラである。オーロラは、太陽から放出される高速の荷電粒子の流れ (太陽風) が惑星の磁気圏に捕らえられ、惑星の周囲を渦巻きながら、やがて磁力線に沿って極地方の上層大気に突入し、上層大気のガスを励起させて輝かせる現象である。地球の極地方で見られるオーロラも、木星の極地方で見られるオーロラも原理は同じだ。木星の場合、太陽風に加え、木星四大衛星のうちで最も木星に近い軌道を巡るイオの火山活動により放出されたガスもオーロラを生じさせる荷電粒子の起源となっている。

木星のオーロラには、木星の四大衛星 (ガリレオ衛星) の「足跡 (footprint)」とでも呼ぶべき現象が見られる。木星の磁気圏は、ガリレオ衛星の磁気圏と影響しあっており、ガリレオ衛星から木星の極地方につながった磁力線がある。したがって、木星の極地方の磁力線には局所的に強い部分があるため、この部分に局所的に明るいオーロラが生じるのである。このような現象は、地球のオーロラには見られないものである。

この画像では、そのような局所オーロラが3か所に見られる。1つは画像左端に見られるひときわ明るい彗星状もので、イオの足跡である。あとの2つは、円盤状のオーロラの下やや右に見られる2つ並んだ点状のもので、そのうち左側がガニメデの足跡、右側がエウロパの足跡である。

1998年11月26日、HSTの宇宙望遠鏡撮像分光器 (Space Telescope Imaging Spectrograph; STIS) による撮像。この紫外線で撮影された画像では、オーロラははっきりととらえられているが、木星の雲の模様は映っていない。これは、紫外線が木星の上層大気によって散乱されてしまうためである。

Credit: NASA/ESA, John Clarke (University of Michigan)

参考: Astronomy Picture of the Day: 2000.12.19