ハッブル、オリオン大星雲中心部に多数の褐色矮星を発見

【2000年8月25日 STScI-PRC00-19 (2000/8/24)

NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)による近赤外線観測により、M42オリオン大星雲中央に位置する「トラペジウム星団」に50個ほどの褐色矮星が発見された。「オリオン座」の方向、地球から1,500光年の距離に位置するM42は、さかんに新しい星たちが形成されつつある領域であり、その中心部の「トラペジウム星団」は、生まれたばかりの星の集まりとして知られる。

HSTがとらえたトラペジウム星団。左は可視光、右は近赤外線による観測

画像左は、HSTの広視野/惑星カメラ2(WFPC2)が可視光でとらえたトラペジウム星団。そして画像右は、HSTの近赤外線分光カメラ兼多天体分光器(NICMOS)がとらえたトラペジウム星団。トラペジウム星団は、中央の明るい星の並びが台形(トラペゾイド)状であるためそう呼ばれるが、右の近赤外線カメラによる画像には、中央の明るい星の集団の周りに、より暗い多数の星の輝きがとらえられているのがわかる。これらの300個以上の星たちは全てオリオン大星雲の中で新たに誕生したばかりの恒星または褐色矮星であり、褐色矮星は、右の画像の中でも最も暗い星たちだ。

褐色矮星は、恒星と同様、星間ガスが集まって誕生するが、十分な質量に達しなかったため星の中央での核融合反応が起こるに至らず、恒星として輝きを放つことができなかった天体だ。可視光はほぼ全く放たず、赤外線のみで輝いているが、誕生から時間が経つにつれてだんだん冷え、赤外線での輝きも失っていく。我々の太陽と同じくらいの年齢(約50億歳)に達した褐色矮星などは、ひじょうに低温のためほとんど放射をせず、発見は難しい。だがトラペジウム星団に見られる褐色矮星は、まだ生まれたばかりであり100万歳程度であるため、原料となった高温ガスの余熱でわりあいに明るく輝いており、比較的容易に発見することができた。

褐色矮星は一時は希少な天体であると考えられていたこともあったが、今回のHSTによる観測と近年の地上望遠鏡による観測成果を総合すると、発見が難しいだけで、通常の恒星同様にありふれた存在であると考えられる。詳しい研究報告は、『アストロノミカル・ジャーナル』誌の9月20日発行号で発表される予定。

左の可視光画像には、褐色矮星の姿はもちろんとらえられていないが、生まれたばかりの恒星たちの輝きもうつっていない。これは、生まれたばかりの恒星はまだ高密度のガスとチリからなる雲に覆われているためだ。だが、近赤外線であればそういったガス雲を通り抜け易いため、これらの生まれたばかりの恒星たちは近赤外線画像にははっきりととらえられている。

観測チームでは、今回発見された褐色矮星の質量は、木星の質量の10倍から80倍程度のものであると見積もっている。しかし、HSTの観測性能の限界により発見には至らないが、より低質量の褐色矮星も存在し得るという。

近赤外線画像は、1998年1月17日の撮影。波長1.1ミクロンおよび1.6ミクロンで撮影後、疑似カラー合成してある。青い星ほど高温かつ大質量で、赤い星ほど低温かつ低質量の星だが、中には、実際の質量は大きいがひじょうに厚い雲に覆われているため赤く見えている星もある。画像にとらえられている範囲はおよそ1光年四方だが、これは9枚の隣り合わせの画像をコンピュータ上でつないで広視野の画像を得たものだ。

可視光画像は、1994年と1995年の観測による。

画像提供:  NASA