X線宇宙望遠鏡チャンドラ最新画像集

【2000年7月5日 CHANDRA Press Room

NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」は、1997年7月にスペースシャトルから放出され、これまでにさまざまな観測を行ない、数々のすばらしい画像が発表されてきた。その最新画像をいくつか紹介しよう。なお、高解像度画像はそれぞれのリンク先を参照されたい。


銀河中心ブラックホールを取り巻くガス

NGC4151の中心部

CXC PR: 00-14

画像は、チャンドラによりとらえられた、北斗七星のやや南の方向、5千万光年の彼方にある銀河、NGC4151の中心部。NGC4151はその核に潜む巨大ブラックホール――我々の太陽の1千万倍ほどの質量を持つ――の影響により、核からの非常に強いエネルギー放射がみられることで知られ、この画像には3,000光年にわたって広がる高温ガスの大質量雲がとらえられている。この中央部の最も明るい部分は、以前ハッブル宇宙望遠鏡により可視光で撮影された画像でもとらえられていた。色はX線の強さに対応しており、温度とは対応していない。この画像は、巨大ブラックホールからの破壊的影響が何千光年にもわたって広がっていることがわかって非常に興味深い。

ガス雲は、画像中央に潜む巨大ブラックホールのごく近くのガスから放射されるX線により熱されている。チャンドラの高エネルギー放射格子分光器(High Energy Transmission Grating; HETG)の観測によれば、ガス雲には窒素、酸素、ネオン、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、鉄などのさまざまな重元素が含まれ、これらの原子は強いX線放射の影響でほとんどの電子を剥ぎ取られていることがわかった。このことは、ガス雲のエネルギー源が巨大ブラックホールであることの直接的な証拠だ。また、雲の一部が、毎時130万kmほどの速さで外部に向かって吹き出しているということもわかった。このことは、ブラックホールとは離れた点において、ブラックホールからの放射の圧力に押されたガスが、外部に向かって吹き出している考えられる。また、細長いこの雲の形状は、ブラックホールからのX線放射が等方的ではなく、サーチライト状の細い範囲に集中していることを意味する。

2000年3月5日〜6日、進化型CCD分光撮像器(ACIS)および高エネルギー放射格子分光器(HETG)による観測。視野は横27秒角(1秒角=1/3,600度で、この画像では220光年に相当)。

画像提供:  NASA/MIT/P.Ogle


何十万光年にも渡って延びるX線ジェット

電波銀河「がか座A」の中心近辺から延びる長大なX線ジェット

CXC PR: 00-15 (2000/6/6)

チャンドラが、電波銀河「がか座A」の銀河中心ブラックホール近辺から延びる、強力で長大なX線ジェットを発見した。この、銀河間の宇宙を何十万光年にも渡って延びるジェットの先には、明るい点状のX線源(可視光や電波による観測でも確認された)が見られる。このX線源はジェットの最先端部にあたると考えられ、ここでジェットが銀河間に存在する薄いガスに衝突して輝きを放っていると考えられるが、なんとジェットの起点から少なくとも80万光年は離れている。この距離は、我々の銀河系の直径の8倍にも相当する。銀河中心ブラックホールからエネルギーを得ているジェット(ガスがブラックホールに落ち込むとき、大半ははブラックホールに吸収されるが、一部は超高速で投げ出され得る)は、太陽系以下の範囲の領域から放出されている。

2000年1月28日、進化型CCD分光撮像器(ACIS)による撮影。露出時間は8時間。銀河〜ジェット先端の点状X線源までの角度は4.2分角(1分角=1/60度)。

画像提供:  NASA/UMD/A.Wilson


惑星状星雲を取り巻く熱いガスの泡

惑星状星雲BD+30 3639を取り巻く熱いガスの泡

CXC PR: 00-16 (2000/6/6)

チャンドラが、地球から5,000光年ほどの距離に位置する、BD+30 3639と呼ばれる惑星状星雲を取り巻く、熱いガスの泡を観測することに成功した。惑星状星雲は、死期が迫った恒星が外層部を撒き散らして形成されるもので、小口径望遠鏡で見ると惑星のように見えるため、こう呼ばれる。

惑星状星雲を取り巻く高温のガスの泡は、理論的にはかなり前から存在が予言されていたものだが、存在がはっきりと確認されたのは初めて。恒星が外層を失い、露出したばかりの核から毎時300万kmの高速で吹き出される恒星風が、放出された外層部に吹き付けることによって形成される。この露出した高密度な恒星の核は、白色矮星と呼ばれ、もう核融合反応も止まっているため、やがて冷えて行く。

今回観測された高温のガスの泡は、ハッブル宇宙望遠鏡で観測された、電離したガスによる殻のすぐ内側にあり、直径は太陽系の直径の100倍ほど。温度はセ氏300万度ほどで、恒星の核の部分で形成された元素を含む。形成されてから1,000年ほど経った姿と考えられる。チャンドラによりとらえられたこの姿は対称形ではなく、科学者らを驚かせた。Joel Kastner教授(ロチェスター工科大学・Chester F. Carlson画像科学センター)によると、この対称性の無さは、恒星がその表層を失うとき、部分によって失う早さが異なったことを示唆し、まだ見ぬ伴星の存在を暗示している可能性があるという。

2000年3月、進化型CCD分光撮像器(ACIS)による撮影。視野角は横6.6秒角(1秒角=1/3,600度で、5,000光年の距離では2,300億kmに相当)。

画像提供:  NASA/RIT/J.Kastner


ほ座超新星残骸の弓と矢

「ほ座超新星残骸」の中の異形のコンパクト星雲

CXC PR: 00-17 (2000/6/6)

地球から1万年以上前の超新星爆発により形成されたと考えられる「ほ座超新星残骸」の中に発見された、この弓と矢のような奇妙な構造のコンパクトな星雲は、超新星残骸の中を高速回転しながら移動している中性子星によって形成されたもの。中性子星は、高速回転しつつ、高エネルギー粒子のリングとジェットを放出しており、移動しながら放出されたリングが弓のような構造を形成し、ジェットが矢のような構造を形成している。ジェットは、光速に近い速度で放出されており、中性子星の移動方向に沿って延びている(右上の緑の矢印が中性子星の移動方向を示す)。

中性子星が移動をはじめた原因は、超新星爆発直後の南北両極でのジェットの強さが異なっていたためと考えられている。

2000年4月30日、進化型CCD分光撮像器(ACIS)による撮影。視野角は横3.5分角(1分角=1/60度で、800光年の距離では0.2光年に相当)。

画像提供:  NASA/PSU/G.Pavlov


共食い銀河

チャンドラがとらえた「ペルセウス座A」

CXC PR: 00-18 (2000/6/7)

これは、チャンドラがとらえた「ペルセウス座A(NGC1275)」。地球からおよそ3億2千万光年の距離にある大規模銀河団「ペルセウス座銀河団」の中心に位置するこの銀河は、周辺の他の銀河を吸収しつつ成長してきた超巨大銀河だ。

中心の青っぽい明るい部分は、銀河中心の巨大ブラックホールを取り巻くガスからの放射だ。その上下にあるの大きな暗い部分――大きさは、我々の銀河系の直径の半分もある――は、中心のブラックホール周辺での爆発現象により放出された、磁気を帯びた荷電粒子の泡と考えられ、周囲よりも温度がやや低いために暗く見えている。そのうち上の方の暗い部分のすぐ右上にある、わずかに暗い部分は、「ペルセウス座A」に落ち込みつつある、およそ200億個の星から成る銀河で、この銀河に含まれるやや低温のガスが「ペルセウス座A」からのX線放射の一部を吸収しているため、このように影のように見える。

X線により、大きな銀河に吸収されつつある小さな銀河の影がとらえられたのは、これが初めてだ。

2000年1月29日、進化型CCD分光撮像器(ACIS)による撮影。露出時間は6.8時間。視野角は、3.5分角四方(1分角=1/60度で、この画像では98,000光年に相当)。

画像提供:  NASA/IoA/A.Fabian


超新星残骸での重元素の分布

超新星残骸「カシオペヤ座A」dでの重元素の分布。左上=広域、右上=シリコン、左下=カルシウム、右下=鉄。

CHANDRA Photo Album (2000/6/27)

チャンドラは、超新星残骸「カシオペヤ座A」を14時間に渡って観測し、超新星爆発により放出された重元素の詳細分布を得ることに成功した。

画像は、チャンドラに搭載されたによる「カシオペヤ座A」。画像左上は、広域X線画像。右上は、シリコン・イオンからの放射、左下は、カルシウム・イオンからの放射、右下は、鉄・イオンからの放射だ。

2000年1月30日〜31日、進化型CCD分光撮像器(Advanced CCD Imaging Spectrometer; ACIS)による撮影。それぞれの画像の視野は横8.5分角であり、これは28.2光年に相当する(「カシオペヤ座A」までの距離は11,000光年であるため)。

画像提供:  NASA/GSFC/U.Huang