天文の基礎知識

10. 彗星

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1996b2 突然のように現れて夜空に長い尾をたなびかせる彗星は、古来から忌まわしきものと言われてきました。大彗星の出現は天変地異の前触れなどと言われていたようです。彗星の正体がわからなかった時代の人々にとっては、ボーッとした頭部とそれに続く長い尾、そして夜空を日々移動して行く彗星の姿は、人心を惑わす不思議なものと映ったのでしょう。彗星には大きく分けて2つの種類があります。長周期のものと短周期のものです。彗星もまた惑星と同じように太陽系を構成する天体です。

彗星の姿

彗星は通常、中心部に輝く核と、それを取り巻くボーッとしたコマ、尾から構成されています。中にはコマがほとんどなく恒星状に見えるものや、尾がなく球状星団のように見えるもの、核がはっきりせず淡い雲のように見えるものなどがあり、様々です。

核は、彗星の中心部に輝く固体部分です。非常に小さなもので、過去に実際に核の大きさが測られた彗星は、現在のところハレー彗星など数個だけです。ハレー彗星の前回の回帰の際に接近した各国の探査機によって7×7×15kmのじゃがいも型の核がとらえられました。そして、その表面の所々からガスやチリがジェット状に吹き出しているのもあわせて観測されました。

コマは、核から吹き出したガスやチリが核を取り巻いているもので、大きさは10万〜100万kmもある巨大な塊です。コマは、太陽からのエネルギーの影響で放出されるものですから、彗星が遠くにあるときにはほとんど見られません。通常の場合彗星が太陽から2〜3天文単位くらいまで近付くと発生することが知られています。

しかし、何といっても彗星の最大の特徴は、その尾にあります。明るく長い尾を伸ばした大彗星の姿ほど素晴らしいものはありません。まさにほうき星そのものの姿を見せてくれます。

彗星の尾

核から放出されたガスやチリが長く伸びて彗星の尾となります。ガスは太陽から吹きつける太陽風によって、太陽の正反対側にほぼ直線状に伸びていきます。これをタイプIの尾、またはイオンの尾と言います。一方、チリは核からの放出速度と彗星本体の速度との関係から、新たな太陽周回軌道を運動するようになります。この時、放出時期やチリの大きさの分布など、いくつかの要素が絡み合って曲線状に伸びていきます。これをタイプIIの尾、またはダストの尾といいます。

ステラナビゲータ では、この2種類の尾を計算して表示することができます。

また、ステラナビゲータ では、これら2種類の尾を個々に選択して表示することも、パラメータを変更して(イオン、ダストの尾の実長、ダスト粒子の最大値)表示することも可能です。さらにリアル表示とアウトライン表示を切り替えて表示することもできます。

彗星の構造
図1:彗星の構造

さらに、彗星の中には、太陽の方向に向かう尾を見せるものがあります。大きく曲ったダストの尾が、見かけ上反対方向に伸びる尾として見えるもので、これを特にアンチテイルと呼んでいます。このタイプの尾は、地球が彗星の軌道面を通過するときに、その位置関係から見られるものでほぼ直線状に見えます。

アンチテイル
図2:アンチテイル

オールトの雲

さて、彗星は一体どこからやってくるのでしょう。1950年にオランダの天文学者オールトは、多くの彗星の統計的研究から1つの仮説を発表しました。それによると、太陽から2万〜10万天文単位のところに彗星の巣があるというのです。これをオールトの雲と呼んでいます。

クロイツ群彗星

多くの彗星の中には軌道要素が非常に良く似たものがあり、これらを群に分けて呼ぶことがあります。最も有名な彗星の群としては、クロイツ群彗星があげられます。この群の彗星は太陽をかすめるようにして近日点を通過していきますので、Sun Grazing Comet とも呼ばれ、明るく、しかも長い尾を伸ばす大彗星が多いのが特徴です。クロイツ群彗星としては、池谷-関彗星が有名です。

彗星の軌道要素

太陽系内の天体は、太陽を1つの焦点とする楕円軌道を描いて動いています。彗星の位置を知るために軌道要素があります。軌道要素からは彗星の軌道の形や運動の様子を知ることができます。

一般的には次のような6つの要素を使います。

T
近日点通過時刻(日の小数)
Peri.
近日点引数(゚)
Node
昇交点黄経(゚) 2000年分点
Incl.
軌道傾斜角(゚)
e
離心率
q
近日点距離(au)

これらのうち、Peri.はω、NodeはΩ、Inc.はiと表記されることもあります。

軌道要素
図3:軌道要素

さて、T はTime of Perihelion Passageの略で、彗星が最も太陽に近付く時刻を暦表時(ET)であらわします。

Peri.は、Argument of Perihelion の略で、黄道面と彗星の軌道の交点のうち、昇交点から彗星の軌道にそって測った近日点までの角度です。

NodeはAscending Nodeの略で春分点から測った昇交点までの角度です。

Incl.は Inclination の略で黄道面に対する彗星軌道面の傾きを角度であらわしています。

eはEccentricityの略で、軌道の形をあらわしています。e = 0.0 の場合は真円軌道、0.0< e < 1.0 の場合は楕円軌道、e = 1.0 の場合は放物線軌道、e > 1.0の場合は双曲線軌道となります。

q はPelihelion Distanceで近日点における太陽から彗星までの距離を天文単位であらわしたものです。

新しい彗星が発見され、その軌道が決定されると、軌道要素としてこれらの数値が発表されます。

ステラナビゲータ では軌道要素ファイルに、これらの数値を入力し、表示する彗星を選択することで表示されるようになります。軌道要素は1992年からは2000年の基準分点における値で発表されていますが、それ以前に発表されたものは、1950年の基準分点における値で発表されています。ステラナビゲータ では、どちらの形式のものでも入力できるようになっています。

彗星の名前

彗星が見つかると、通常は発見者の名前を彗星の名前として採用することになっています。新彗星の場合は、発見順に3名までの名前が与えられます。

日本人による単独発見としては、古くはNagata(C/1931 O1)彗星、Honda(C/1955 O1)彗星、Seki(C/1961 T1)彗星、Ikeya(C/1963 A1)彗星、P/Kojima(70P)彗星などがあり、最近ではHyakutake(C/1996 B2)彗星、Utsunomiya(C/2002 F1)彗星、SWAN(C/2002 O6)彗星などがあります。ここで、Kojima彗星の名前の頭についている"P/"はPeriodicの略で、周期彗星を表しています。周期が200年以下の彗星は短周期彗星、200年以上の彗星は長周期彗星と呼ばれています。

彗星の名前の後の( )の中は彗星を区別するための符号と呼ばれるもので、これも彗星に付けられた名前(記号)の一種です。先頭の文字がPのものは周期彗星、Cは非周期彗星、Dは消滅したり行方不明になったりした彗星を表しています。

周期彗星のうち回帰が確認されたものは、軌道が確定したとして通し番号が付けられるようになります。上の例で言えば、Kojima彗星は軌道が確定した70番目の周期彗星ということになります。周期彗星番号1番はハレー彗星で、2003年1月の時点で155個の彗星に周期彗星番号が付けられています。

また、年を表す4桁の数字の後ろのアルファベットと数字は、その年の中で何月に発見されたものかを表す記号です。Aが1月上旬、Bが1月下旬で、以後月ごとに2つのアルファベットを使います(Iは使いません)。この要領で、12月下旬がYになります。そして、その半月の中で何番目に発見されたものかを表すのが最後の数字です。上の例では、1996 B2は1996年1月下旬に発見された2番目の彗星、2002 F1は2002年3月下旬の1番目、2002 O6は2002年7月下旬の6番目、ということになります。

このほか、最初は小惑星だと思われていたものが実は彗星だとわかった場合、最初に小惑星として付けられていた名前がそのまま彗星の名前になることもあります(C/2001 RX14など)。

彗星の明るさ

彗星の明るさをあらわす方法は2つあります。全光度(m1)と核光度(m2)です。全光度は彗星の核、コマ、尾など全ての部分を含んだ光度であり、核光度は中心核のみの光度をあらわすものです。

コマや尾がなく恒星状にしか見えない彗星の場合には核光度が用いられますが、通常の場合は全光度が用いられます。しかし、全光度の決定はかなりむずかしく、空の状態や観測者の状態、使用する望遠鏡(あるいは双眼鏡など)の性能などによって、まちまちです。場合によっては1等級くらいの差が当り前にでてしまったりします。

彗星の明るさは以下の計算式で求めることができます。

m1 = H1 + 5 log (delta) + K1 log r

H1は彗星が太陽からも地球からも1天文単位の距離にあるときの光度で、標準光度と呼ばれています。deltaは彗星-地球間の距離(地心距離)、rは彗星-太陽間の距離(日心距離)をそれぞれ天文単位であらわしたものです。また、K1は光度係数です。

つまり、彗星の光度は地球からの距離の逆自乗に反比例し、太陽からの距離の逆自乗に比例していることになります。

さてH1とK1の値は、彗星ごとに違います。また、彗星が太陽に近付いて行く場合と遠ざかる場合で変化することもあります。

ステラナビゲータ の場合、軌道要素ファイルに、H1、K1それぞれの数値を入力してやることで彗星の光度を計算することができるようになります。