天文の基礎知識

1. 時刻と時刻系

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私たちは、日常の生活において「午前10時」とか「午後3時」というような時刻を何気なく使っていますが、時刻を決めるためのルールには、いろいろな種類があります。

特定のルールに基づいて決まる時刻全体のことを「時刻系」と呼びます。日本国内では「日本標準時」と呼ばれる時刻系が採用されています。ところが、国によって時刻系は異なるため、海外旅行に出かける場合などは時刻系を切り替える(時差の分だけ時計を進めたり遅らせたりする)必要が出てきます。

これら、各国ごとに決められた時間を地方時といいます。これに対し、天文学では世界共通の時刻を使用することが多く、これを世界時と呼んでいます。

時刻系
図1:ステラナビゲータで時刻系を切り替える

世界時

世界時(Universal Time:UT)は、経度の基準となるグリニッジ天文台(イギリス)における平均太陽時(GMT)のことです。

ここで平均太陽時について説明しておきましょう。

1日の長さを表すには3種類の方法があります。まず、太陽が南中(真南にくる瞬間)してから次に南中するまでの時間を真太陽日といいます。各地において太陽が南中するのは昼間です。すると昼間に日付が変わってしまうことになってしまい、そのままでは、非常に生活しにくいことになりますので、真太陽日の1日の始まりは太陽の時角+12時間と決められています。

さて、太陽は天の赤道に対して23゚27'傾いた黄道上を1年かかって移動しており、しかも一定の速度で動いているわけではありません。これは、地球の軌道がわずかに楕円軌道を描いているためですが、それによって、真太陽日の1日の長さは絶えず変化しています。1日の時間が日によって違ってしまうのでは困ってしまいます。

そこで、天の赤道上を一定の速度で移動する太陽を仮想し、平均太陽と呼ぶことにしたのです(図2)。この平均太陽が南中してから、次に南中するまでの時間は季節を問わず常に一定となります。これを平均太陽日といいます。そして、平均太陽日をもとに決められた時刻を平均太陽時といいます。

平均太陽と真太陽
図2:平均太陽と真太陽

さて、平均太陽時による時刻と、真太陽時による時刻との差分を均時差といいます。均時差の1年間のグラフを図3に示します。グラフから2月中旬(真太陽時が最も遅れる)と11月上旬(真太陽時が最も進む)に均時差が最も大きくなることや、均時差が0となる日が年4回あることなどが読みとれるでしょう。

均時差
図3:均時差のグラフ

図4は明石と東京における、正午の太陽の位置を1カ月毎にプロットしたものです。太陽は八の字型の軌跡(アナレンマ)を描いていますが、2月中旬と、11月上旬が真南の線(子午線)から最も離れているのが分ります。このズレを時間で表したものが均時差ということになります。ですから、先ほどのグラフで均時差が0になる日には、ちょうど正午に明石で太陽が南中している日ということになります。

では、この図で東京における太陽の動きを見てください。東京では、正午に太陽が南中する日は、1年を通して1日もありません。これはどういうことでしょう。これは、東京が明石より東に位置していることと、日本における時間が、明石を通る東経135゚の子午線を基準にして決められていることによります。

正午の太陽の位置
図4:正午の太陽の位置が描くアナレンマ

地方標準時と地方平時

日本国内のような限られた狭い地域においては、世界時を使用するよりも、その地域ごとに決められた地方標準時(Local Standard Time:LST)を使った方が便利でしょう。 地方標準時は、基本的にはグリニッジの子午線からの離角15゚ごとに世界時に1時間を加減することによって与えられています(図5)。

グリニッジから東(東経)に向かう場合には加えていき、西(西経)に向かう場合には減らしていきます。日本の場合には東経135゚(明石)を標準子午線としており、(135゚÷15゚=)9時間を時差として世界時に加えたものを日本標準時(Japan Standard Time:JST)と規定しているわけです。

東京と明石の経度差は4゚42'です。太陽は東から西に向かって1時間に約15゚ずつ移動していきます。ですから、東京では明石より約19分も早く太陽が南中してしまうのです。

地方標準時
図5:地方標準時

それでは、東京での太陽の軌跡を均時差に合わせて補正するにはどうしたらいいのでしょう。簡単ですね、明石との時間差である19分間をキャンセルしてやればいいのです。

つまり、日本標準時の11時41分における太陽の位置をプロットしていけばいいということです。ここで強引に、この時間(仮に東京時間と名付けます)を東京における正午としてしまいましょう。そうすれば、東京時間正午における太陽の軌跡はほぼ均時差のグラフに一致することになります。

実は、天文学ではこの東京時間に相当する時間の考え方も使われています。これを地方平時(Local Mean Time:LMT)といいます。地方平時は各経度毎に固有の値となります。 言い替えれば、世界時に経度差(時間の単位に換算)をそのまま加減したものということになります。東京は東経139゚42'ですから、139゚42'÷15゚=9.3133、これを時間に直すと9時間18分48秒となります。世界時の0時は日本標準時午前9時、東京における地方平時午前9時18分48秒ということになるわけです。

タイムゾーン

さて、地方標準時によって各国の時間が決められているのですが、東西に長い国では1つの標準子午線だけでは実生活との差が生じてしまいます。
例えば、先のアメリカなどがいい例です。アメリカ本土だけを考えても、東西に約4500km、経度にして60゚近くにも達します。東京と明石の間だけでも19分の時間差があるのですから、アメリカの場合は大変なことが分るでしょう。仮にこの中央部に標準子午線を1本だけ設けたとしましょう。今、仮に標準子午線上で正午に太陽が南中しているということにします。すると東海岸のニューヨークの太陽は既に2時間も前に南中を過ぎてしまっていますし、西海岸のサンフランシスコの太陽は南中の2時間も前ということになります。これでは、生活がしにくくていけません。そこで、国内(本土内)を4つの地域に分割し、それぞれに標準時を設けているのです。当然、本土から離れているアラスカやハワイではもっと時間差が大きくなりますから、ここにも独立した標準時が設けられています。結局、1つの国の中に6つの異なる時間が存在しているのです。このような地域分けをタイムゾーンといいます。

さらに厄介なことに、国によっては夏の時期に時間を進めるサマータイム制(夏時間制)をとっている国もありますので、海外旅行の時など注意が必要です。

なお、東経180゚の子午線と西経180゚の子午線は同じものですが、東経180゚の時差はUT+12時間、西経180゚の時差はUT-12時間となり、まる1日のずれが生じてしまいます。そこで、この子午線を日付変更線とし、東経側から西経側へ通過する時には同じ日を繰り返すこととし、その逆の場合には翌日の日付にすることに決められています。なお、日付変更線は、地形的な問題や政治的な問題から真っ直ぐにはなっていません。これは、タイムゾーンの分割線に関しても同様です。

グレゴリオ暦とユリウス暦

現在、私達が日常において使用している日数の数え方は、地球が太陽を1周するのに要する日数(1回帰年=365.2422日)を365日として数え、毎年の余りとなる0.2422日分の誤差を修正するために、4で割り切れる年を閏年として1日増やし(1年=366日)、100で割り切れる年を平年(1年=365日)とし、ただし400で割り切れる年は閏年とする、という方法で、グレゴリオ暦と呼ばれています。

ヨーロッパなどでは以前、ユリウス暦という日の数え方が使われていました。これは1回帰年を365.25日としたもので、実際の1回帰年である365.2422日との差の補正は行わない日の数え方です。つまり、4で割り切れる年を必ず閏年にするというものです。そのため誤差がどんどん累積してしまったのです。

そこで、誤差の分を修正するために、ユリウス暦の1582年10月5日をグレゴリオ暦の10月15日とし、現在のグレゴリオ暦に切り替えました。

1582年10月のカレンダー
図6:ステラナビゲータで表示した1582年10月のカレンダー

なお、イギリスがユリウス暦からグレゴリオ暦に切り替えたのは1752年11月24日からですし、日本では1873年1月1日から、それ以前に使われていた太陰太陽暦からグレゴリオ暦に切り替えられました。

このように、各国によって異なる暦を使っていたために、古い文献などを調べる際には注意が必要となります。

グレゴリオ暦は現在、世界中で使われている暦ですが、1年の日数が年によって違っていたり、月の日数が月によって違っていたりと、不便な点も多々あります。そこで使われるのがユリウス日です。

ユリウス日と修正ユリウス日

ユリウス日(Julian Day:JD)は、世界時の-4712年(BC4713年)1月1日12時を0とした通日の値です。ユリウス日の1日は世界時の正午に始まります。そして時刻は日の小数として表されます。

たとえば、2000年1月1日0時(UT)は、ユリウス日では2451544.5日となります。起算日から6700年余りの年月が経過していますから、ずいぶんと大きな数になってしまっています。 さらに、日付の変わり目が実際のグレゴリオ暦と違っているのも不便であるという理由から、1973年の国際天文学連合(International Astronomical Union:IAU)において、1858年11月17日0時(UT)JD=2400000.5日を新起算日とする修正ユリウス日(Modified Julian Day:MJD)が採択されました。

紀元前の扱いについて

ステラナビゲータ の操作に馴れてくると、古い文献に載っている天文現象などを再現してみたくなります。 最近では、元東京天文台の斎藤国治先生によって「古天文学」という新しい研究分野が創設され、興味を持たれている方も多いようです。 ステラナビゲータ では、かなりの高精度で天体の位置計算をしていますから、こういった分野でもある程度の検証用として使用することが可能です。

このような場合、紀元前の日付の入力に関して注意が必要となります。歴史上は紀元0年は存在しません。つまり、当時は0という概念そのものがなかったからです。ですから、紀元1年の前年は紀元前1年となります。紀元前の日付をステラナビゲータ へ入力する場合、日時設定ダイアログボックスからの入力においては、気にする必要はありません。