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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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098(2013年3〜4月)

2013年10月4日発売「星ナビ」2013年11月号に掲載

岩本新彗星(2013 E2)

前号からの続き】阿波市の岩本雅之氏が2013年3月11日の明け方の空に発見し、翌12日朝に確認した新彗星の2夜の観測から決定したバイサラ軌道は、よく決まっていました。3月14日夜に最初にこの彗星を確認した大崎の遊佐徹氏の確認画像上には、その中央に彗星が写っていました。確認作業の過程では、こんなことは滅多にあることではありません。確認依頼を受け取った遊佐氏が半信半疑で撮影した画像上の中央に彗星がいたのです。これには氏もびっくり仰天したとのことでした。3月15日10時38分に送った新天体発見情報No.195を見た岩本氏から、11時16分に「このたびは大変ありがとうございました。そして、お世話になりました。学生の頃からの夢が叶いました。これも中野さんと皆様のおかげと感謝しております。我が家は農家で、今朝方もイチゴの収穫等しており、返事が遅くなり申し訳ありません。それにしても情報は早いですね。朝早くから取材等の申し込みが何度かありました。本当に彗星を発見できるとは夢のようです」というメイルが届きます。岩本氏の新彗星発見は11時38分に発行のOAA/CSのEMESで仲間に知らせました。

その日(3月15日)の午後、16時53分には札幌の金田宏氏から「岩本さんが発見された新彗星を板垣さんが3月15日朝に観測しました。その画像を私が測定しましたので報告いたします。観測は、栃木県高根沢にある50cm望遠鏡を遠隔操作したものと、山形の60cm望遠鏡で行ったものです」というメイルとともに、2か所で観測した測定位置が届きます。私は、このとき初めて『山形から栃木の望遠鏡が遠隔操作できるようになった』ことを知りました。そのあと、18時01分には板垣公一氏から「岩本さん。すごいですね。しばらくぶりに興奮しました。私も、2夜にわたって発見できるチャンスがあったのに逃しました。これも注意力と能力のなさです。それにしても、やはり彗星発見はいいですね。昨夕から家に戻らず、今も山にいます。これからパンスターズ彗星の観測と西の低空を捜索したいと思います」というメイルがあります。『板垣さんも捜索を行っていたのか……』と、18時35分に板垣氏に『このエリアを捜索されていたということですか』という問い合わせを送りました。すると19時48分に「いいえ。もう少しでした……。朝、夕とも低空の捜索は、撮影の順番等とても難しいです。2夜とも時間切れでダメでした。でも、やはり彗星捜索は楽しいです」という返信があります。

3月16日朝は、鈴木雅之氏、野口敏秀氏、安部裕史氏、門田健一氏から追跡観測が届きます。そしてその日の夕方19時30分には、赤穂の川西向陽氏からもめずらしく「多忙にてしばらくおとなしくしておりましたが、天文から離れたわけではありません。近いうちに遊びに行こうと思いつつ、3月半ばになってしまいました。この前のメイルを真に受けてしまい、訪問することができないでいます。望遠鏡も30cmに交換しさっそく岩本彗星に向けました。透明度が悪く、核光度がかなり暗く出ます。イメージもとても13等級とは思えないしょぼい写りでした。以下が今朝の観測です。MPCに送る手順を忘れたので手間取っていますが、先に中野さんに送ります。またメイルします」というメイルとともに観測が届きます。

その夜、スペインのゴンザレスから岩本氏の写真を送ってほしいと連絡があります。そこで、21時57分に『スペインのゴンザレスから、あなた様と望遠鏡、できれば操作コンピュータがともに写った写真を送ってほしいとメイルがありました。お願いできるでしょうか。彼のウェッブサイトに使いたいとのことです。私の方にお送りいただければ、転送します。どうぞ、よろしくお願いします。ところで上尾の門田さんによると、画像の撮影状態から彗星の捜索を行っているらしいとのことですが、この彗星は捜索の過程で発見されたものなのでしょうか。もしそうなら、いつ頃から始められ、これまでの捜索時間はどのくらいだったのでしょうか。お教えいただければ幸いです。もう1つ質問があります。それは、3月11日の朝の画像は1枚なのですか。その場合、彗星がどちらの方向に動いたかわかりませんが、周囲を探したということでしょうか。彗星の日々運動が約1゚ほどありますので大変だったのではありませんか』という、お願いと問い合わせを送りました。岩本氏からは、3月17日20時18分に「3月11日にとらえた不明天体を中心に、12日は範囲を少し広げて撮りました。写野は5゚.0×3゚.4ほどありますので、移動していても少し範囲を広げれば天体があれば確実に捉えられると思っていました。私は、昭和59年頃からそれほど熱心な方ではなかったですが、彗星捜索をしていました。途中休んでいたときもありましたが、フジノン15×25双眼鏡での捜索を冬場を中心に続けていました。今年の1月からは、双眼による眼視とデジタルカメラによる写真捜索を併せて行っていました。今までの眼視での捜索時間はとくに記録してないので不明ですが、1月から3月11日の発見まで、写真では朝12日間(約20時間、586枚)、夕10日間(約11時間、372枚)での発見となります。特に11日は、03時頃から05時20分頃まで92コマの写真を撮りました。その中の77コマ目に彗星が写っていました。添付写真は、発見の望遠鏡と私がコンピュータの前で座っているものと、夜の観測場所の様子の写真です。私と望遠鏡の写真が撮れていませんが大丈夫でしょうか」というメイルとともに画像が送られてきました。『ありがとうございました』。

なお、この彗星は、8月に入っても長野の大島雄二氏が8月6日に14.5等、門田氏が8月7日に14.1等、栗原の高橋俊幸氏が8月11日に14.4等、12日に14.3等、門田氏が8月25日に14.3等と、まだ14等級で観測されています。

超新星2013am in M65(NGC 3623)

3月20日は所用で06時35分に京都まで出かけました。京都では空は曇り、午前中に小雨が降り始めました。用が終わり、オフィスに戻ってきたのは16時40分のことです。外は、本格的に小雨が降り始めていました。翌日3月21日は、部屋の大掃除の日でした。掃除が終わったのは夜のことです。その夜、天候は急速に回復し、快晴の空に戻っていました。その深夜のことです。加古川の菅野松男氏から携帯に電話があります。氏は「しし座にあるM65に超新星を見つけました」と話します。『メイルで報告してくれませんか』とお願いしました。氏のメイルは3月22日03時55分に届きます。そこには「日頃、ご無沙汰して申し訳ありません。M65(NGC 3623)に超新星らしき天体(PSN)があります。口径35.5cm f/11シュミット・カセグレン望遠鏡で発見しました。ピントが良くありませんが、13等級ぐらいと明るいです。変光星や小惑星チェッカーで調べましたが、発見位置には何もありません。午前02時には曇ってしまいましたが、1時間余り観測しても移動しません」というメイルに続いて「2013年3月22日深夜、00時18分頃に30秒露光でしし座にあるM65を撮影した10枚の捜索画像上に超新星状天体を発見しました。PSNは、中心核から南に約17'、東に約3'離れた位置に出現しています。位置測定は、トンプソン超新星捜索星図から読み取ったものです。この超新星状天体は、2012年12月10日に行った捜索時には、まだ出現していませんでした」と報告されていました。氏からはその後にも、過去画像や発見画像や離角の訂正(正しくは、核から南に1'.7、東に0'.3)が報告されます。

画像を見ると菅野氏のメイルにあるとおり、写りは良くありません。06時42分に氏に『何とか精密位置と光度を測定していただけませんか。できれば銀河中心もです。発見枚数は3枚ということですか』というメイルを送りながら『この画像を測れるかなぁ……』と思っていると、氏から電話があります。そこで『報告は見ました。発見は精測位置でないとだめなんですよ。誰かに測ってもらえませんか』と意地悪をしてしまいました。すると氏は「板垣さんに測ってもらいます」と話します。『ではお願いします』と返答して電話を切りました。氏の発見は、06時42分に画像をつけて関係者に送っておきました。

ところがです。菅野氏からは、08時14分に上尾の門田健一氏宛に「突然で申し訳ありませんが、光度と位置測定をお願いします」というメイルが送られていました。『あれ……、板垣さんじゃなかったの……』と思ってそのメイルを見ました。それから約1時間半後の09時38分に門田氏からメイルが届きます。そこには「以下のメイルでお預かりした4フレームを測定しました。位置と光度、ともにGSC-ACTカタログを使いました」という連絡とともにその出現位置がありました。『あの画像をよく測れたなぁ……。さすがは、門田さん』と思いながら『今日は金曜日。出勤日ではないか。よく時間が取れたものだ』とご苦労を察しました。あとになって、門田氏にはお詫びのメイルを送っておきました。なお、門田氏によると、超新星は銀河核から東に15"、南に102"離れた位置に出現しており、光度は菅野氏の報告のものより暗く、15.6等であったとのことです。とにかく、これで報告に必要なデータは揃いました。そこで10時45分にこの発見をダン(グリーン)へ送付しました。その報告を見た菅野氏からは「本日は早朝からM65の超新星らしき天体発見につき、適切な対応処理をいただきありがとうございました。これから世界各地での確認観測に期待しています。ご多忙中のところを皆様方のご協力に深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました」というメイルが12時46分に届いていました。

その日(3月22日)の夕刻、17時52分には、大崎の遊佐徹氏から「お忙しいところ、いろいろとお疲れさまです。今日は休みでしたので、お昼前より米国メイヒルの天気をながめていましたが、雲が多く、中々ドームが開きません。大崎も一面の雲に覆われ、今晩の観測は難しそうです。早ければスペインのネルピオか、明日夜の大崎での確認になりそうです。M65の超新星となれば、その距離は2400万光年ですので、明るくなりそうですね」というメイルが届きます。そして、その夜の明け方、03時29分に香取の野口敏秀氏から「3月23日02時51分に、23cm f/6.3望遠鏡で菅野さん発見のPSNを15.8等で確認しました」というメイルが届きます。朝まで報告を待ちましたが、この夜は、国内での確認は野口氏の観測だけでした。そこで08時44分に氏の確認をダンに伝えました。その夕方、15時05分には、菅野氏の超新星が早々と公表されたCBET 3440が届きます。『早いなぁ……』と思いながらその回報を見ると、海外での複数の確認があったようです。M65は近接銀河の1つで、視直径が10'、光度が9等級の大きな銀河です。そのため、観測・研究者の興味をひいたのでしょう。3月23日05時ごろにはアジアゴの1.82m望遠鏡でスペクトル観測も行われ、超新星爆発直後のII型の超新星であることが報告されています。この回報は、15時59分に菅野氏にも送っておきました。なお菅野氏は、これまでに新彗星(1983 J1)と3個の新星を発見しており、今回で発見三冠(彗星、新星、超新星)を達成したことになります。

3月24日03時01分には、菅野氏より「CBET 3440をお送りいただき、ありがとうございました。これをコピーして午後06時半からのOAA神戸支部例会に出席し、発見から公表までのいきさつを報告させていただきました。出席者の皆さんからお祝いの言葉をいただき、本当にうれしく思いました。発見から決定までこんなに早くできたのは大変珍しいと、板垣氏からもお祝いメイルをいただきました。貴殿には大変ご多忙のところを適切な処理をいただき、大変感謝しています。23時半に帰宅して撮影をはじめようとしたら曇ってきて、今も雲の中です。今夜はだめのようです。それから、例会に出席されていた岡村修氏から、マスコミへ知らせるので望遠鏡写真や発見画像をくださいとの依頼があり、先ほど岡村氏へ送りました。では、お礼方々、ご報告まで」というお礼が届きます。その同じ日の朝、08時25分に新天体発見情報No.196を発行し、報道各社に氏の発見を知らせました。菅野氏からは4月5日16時04分になって「超新星2013amの発見については、大変お世話になりありがとうございました。その後、マスコミの対応でうれしい悲鳴を上げております。昨日はNHKラジオ大阪第1放送へ出向いて収録があり、本日午後05時20分から約30分間放送されます。貴殿のお名前も出させていただきましたが、編集されますのでどのようなお話になっているか気がかりです。後日に録音テープが送られてきますので、コピーをお送りします。まずはお知らせまで」という連絡があります。このメイルは、17時07分に関係者に送りました。

ぎょしゃ座の矮新星

2013年4月4日00時23分に掛川の金子静夫氏より「4月3日19時40分に200mm望遠レンズ+デジタルカメラでぎょしゃ座を撮影した2枚の捜索画像上に、12.0等の新星状天体(PN)を発見した」ことが報告されます。氏によると「2012年9月9日と2013年3月23日に撮影した画像上には、この星の姿が見られない」とのことです。しかし発見報告には、各画像の極限等級がありません。そこで00時44分にそのことを問い合わせました。返答が01時00分に届きます。極限等級は14等級とのことでした。そこで、この発見を4月4日01時29分にダンに送付しました。それを見た金子氏からは、06時57分に「さっそく対応していただき、ありがとうございました。未確認天体確認ページ(TOCP)によると、増光天体が他所で観測されていることを知りホッとしました。DSS画像を拡大してみると確かに小さな星があるようです。よく見たつもりでも見えていないものですね。今後は注意しなければと思います。ありがとうございました」というメイルが届きます。

その日の夜になって、山形の板垣公一氏から22時37分に「60cm反射で4月4日21時47分にこのPNを観測したところ、12.8等であった」ことが報告されます。なお板垣氏は、最近ではご自分で観測をTOCPに報告されているため、当然、この氏の観測もTOCPに投稿されたと勘違いしていたために、私から氏の観測を報告したのは4月6日21時54分になってしまいました。

4月6日10時47分には、金子氏より板垣氏に宛てた「観測ありがとうございます。私も、4月4日と4月5日の夜にかろうじて撮影できました。透明度が悪く、200mmレンズでは写ったり写らなかったりですが、12.8等前後で減光傾向でしょうか。その後のTOCPによると、天文衛星SWIFTが向けられてX線を観測しているようで、今後もまだ楽しめそうです。中野さんをはじめ、皆様にもお世話になりました。ありがとうございました」という情報が届いていました。

4月8日になって、20時30分に大崎の遊佐徹氏から「新年度で多忙を極め、中々観測する余裕がありませんでした。しかし、先ほどCBATに報告したとおり、本日ようやく金子さんのPNを米国メイヒルにある25cm望遠鏡でBVRの三色測光を行うことができました。4月8日12時29分にV等級で13.3等でした。TOCPでMASTERのチームが青い星が爆発した「や座WZ」型の矮新星らしいと報告していますが、私の測光でもB-V=0.1となりました。これは、ほぼシリウスと同じ色(B-V=0.00)ということになります。三色合成の写真のとおり、青い色がよくわかります。アストロメトリカでB、V、g、r、iの5バンドの光度データが入ったUCAC-4が使えるようになり、多色測光がかなり楽になりました。念のため、同視野のTychoカタログにある3つの星を比較星に、BVR等級を測定してみましたが、ほとんど同じ等級になりました」というメイルが届き、このPNは、アストロテレグラム4954に記載されているように「青い星が爆発した『や座WZ』型の矮新星」ということになったようです。

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