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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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085(2011年8月)

超新星 2011em in NGC 5164

超新星2011ehの発見から約2週間が過ぎた2011年8月3日21時38分に広島の坪井正紀氏から「本日、やっとSN 2011eh in NGC 3613として公表されました。発見以来、いろいろとご心配いただきありがとうございました。半分あきらめかけていましたが、一応ひと安心です。また次に向かうことができそうです」というメイルが届きます。8月4日朝、08時30分に新天体発見情報No.178を発行し、報道各社にこの発見を伝えました。坪井氏からは、09時50分に「発見情報を受領しました。毎回、ありがとうございます。額に飾って記念にいたします。皆様、あらためてお礼申し上げます」というメイルが関係者に届きます。

坪井氏のメイルを見て、実家に寄り帰宅しました。空は快晴でした。この日(8月4日)は、台風9号が沖縄付近をのろのろと北上していました。しかし、この快晴の空は夜まで続いていました。同日21時25分、オフィスに出向くと、19時48分には大崎の遊佐徹氏から「坪井さん。NGC 3613の超新星発見・公表、おめでとうございます。祝福申し上げます。今回は確認、公表までずいぶん時間がかかりましたが、待たされた分、感激もひとしおでしょうね。8月に入り、中々時間がとれない状況ですが、もし新天体の情報がありましたらご連絡ください。土曜・日曜ならなんとかなりそうです。」さらに香取の野口敏秀氏からは20時07分に「新天体発見情報、ありがとうございました。私の観測は皆さんの観測精度、実績には足下にもおよびません。少しずつ経験を積み、お役に立てるよう勉強してまいります。自宅ドームでの観測ですので、短時間での対応が可能です。また、何か観測できましたら報告させていただきます」というお祝いのメイルが転送されて届いていました。それらを見て、ジャスコで買い物をして、22時30分、再び自宅に戻りました。

その夜のことです。8月5日00時39分に坪井氏より「NGC 5164に超新星状天体(PSN)を見つけました。発見報告を送りました」という連絡があります。氏の報告は00時35分に届いていました。急いで準備をして、01時20分にオフィスに再度戻ってきました。8月にしてはひんやりとした夜でした。空も、まだよく晴れていました。その空は、台風9号に近い広島まで続いていたようです。坪井氏の報告は「SN 2011ehではありがとうございました。立て続けで申し訳ありませんが、本日の観測において新しい超新星らしき天体を発見しましたので報告いたします。確認のほどよろしくお願いいたします。現在、広島は曇ってしまいましたが、発見後2時間の間に撮れた10枚の画像上では移動は確認できません。高度もかなり低くなっていますが、よろしくお願いします」というメイルから始まっていました。

坪井氏の報告には「2011年8月4日夕刻、30cm f/5.3反射望遠鏡+CCDを使用して、21時48分頃に30秒露光でおおぐま座にあるNGC 5164を撮影した捜索画像上に16.8等の超新星状天体を発見しました。その発見後の2時間内に撮られた10枚の画像上にこの出現を確認しました。この超新星は2011年6月29日と7月23日に行った捜索時には、まだ出現していませんでした。また、DSS(Digital Sky Survey)にも、その姿は見られません。なお超新星は、銀河核から東に11"、北に3"離れた位置に出現しています」とありました。氏の発見は、01時49分にダン(グリーン)に連絡しました。そこには『西日本は快晴の空だ』とつけ加えておきました。

超新星 2011ek near NGC 918

その日の夜が明けた05時28分に山形の板垣公一氏から連絡があります。「NGC 918に超新星を見つけた。報告までもう少し時間がかかる」とのことでした。どうも、晴天は山形まで届いていたようです。06時05分に氏からの報告が届きます。そこには「60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2011年8月5日明け方、03時28分におひつじ座にある系外銀河NGC 918近傍を15秒露光で撮影した捜索画像上に16.4等の超新星状天体を発見しました。発見後に撮られた5枚の画像上に、この超新星の出現を確認しました。30分間の追跡では動きはありません。超新星は銀河核から西に27"、北に133"離れた位置に出現しています」と報告されていました。06時20分に、氏へ多少の確認を取った後、06時59分に氏の発見をダンに伝えました。この日は08時20分にオフィスを離れ、実家に寄って09時05分に帰宅しました。帰宅の途中で後部座席に置いたバッグの中で携帯が鳴っています。『多分、板垣さんだ……』と思い、帰宅後の09時22分に氏に連絡を取りました。この日の朝は、台風9号はまだ沖縄近海にいました。しかし空は曇天に変わってきました。

超新星 2012emと2012ekの確認

8月5日の夕刻は、19時30分に自宅を離れ、南淡路まで出かけました。そして21時30分に自宅に戻ってきました。天候は小雨に変わっていました。19時41分には大崎の遊佐徹氏から「PSNe発見の情報、ありがとうございます。先ほど帰宅し、リモート天文台のコンソールページを見ました。どこもルーフが閉まっています。大崎も曇っています。明日、メイヒルで確認できれば報告いたします」という連絡がありました。その夜、8月6日01時17分に香取の野口敏秀氏から「NGC 918のPSNは、8月6日00時23分に16.3等でした」という報告が届きます。さらに02時23分には、上尾の門田健一氏から「SN 2011ehの発見、おめでとうございます。こちらは、曇天続きで観測できませんでしたが、無事にスペクトルが報告されて公表に至り安心しました。CBETの発行までに日数がかかりましたので、感激もひとしおではないでしょうか。また、NGC 5164とNGC 918のPSNをお知らせいただき、ありがとうございます。日本国内の発見が続くとうれしいですね。早速観測したいところですが、今夜も曇天です」という連絡があります。その日(8月6日)の朝、07時56分、山形の板垣公一氏から「NGC 5164のPSNを観測しました。8月5日19時47分に16.0等でした。PSNは存在します」という報告があります。広島の坪井正紀氏からは08時26分に「ご自分のPSNの観測もある中、私の分まで観測して下さったんですね。ありがとうございます。昨夜はSN 2011ehがやっと撮れたくらいで、その後、突然の雨で機材が濡れてしまいました。今年で2回目の失敗です。故障してないか不安です」というお礼が板垣氏に送られていました。これらの確認観測は、8月6日08時46分と08時58分にダンに送付しました。夕刻19時44分には、遊佐氏より「坪井さんと板垣さんのPSNは、ともに確認観測がなされてひと安心です。リモートで追跡したいのですが、メイヒルは天気が悪いようです。どちらも明るいので、早期に分光観測がされるといいですね。ようやく明日は休みが取れそうです。メイヒルが晴れたら、観測してみたいと思っています」というメイルがあります。

超新星 2011gc

その夜の明け方、8月7日03時39分に山形の板垣公一氏から「2011年8月6日深夜、23時52分に60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、かに座にある無名銀河を20秒露光で撮影した捜索画像上に17.7等の超新星状天体を発見しました。発見後に撮影された5枚の画像上にこの出現を確認しました。この超新星の姿は、保有する過去の捜索画像上、DSSの画像上にもありませんでした。しかし発見2日前の8月4日に撮影した捜索画像を調べた結果、この超新星は17.9等ですでに出現していたことを見つけました。超新星は銀河核から東に4"、北に10"離れた位置に出現しています」という発見報告が届きます。『あれ……何とすごい。もう1個見つけたか』と思い、05時22分にこの発見をダンに連絡しました。その日(8月7日)の夜、23時19分に板垣氏からメイルが届きます。そこには「ビショップ氏から、今朝報告したPSNは、私の発見から約1か月半前の6月28日にイタリーの超新星捜索グループが報告していた発見光度17.8等のPSNと同じ天体で、すでにTOCPに掲載されているという連絡があり、この発見を取り下げます」と書かれてありました。『あれ、何と……』と思いながら、了解しました。なおこの超新星2011gcは、板垣氏の発見から2か月が過ぎようとしていた9月29日12時48分到着のCBET 2835で、その発見が公表されました。そこには板垣氏も独立発見として掲げられていました。超新星は、9月26日になってスペクトル観測が行われ、IIP型の超新星らしいことが確認され公表されました。9月末の時点で、超新星爆発からすでに2〜3か月が経過しているとのことです。なお、多くの超新星を発見している板垣氏ですが、氏によると、この発見は72個目の超新星だそうです。

再び、超新星 2012emと2012ekの確認と公表

8月7日朝、坪井氏からは「NGC 5164のPSNを昨夜8月6日20時35分に観測しました。16.6等でした」という報告、そして、その夜8日03時36分に、上尾の門田健一氏から「NGC 918のPSNを観測しました。光度は16.6等でした」という報告が届きます。氏の観測は、坪井氏の観測と合わせて06時23分にダンに連絡しました。8月9日06時10分には、坪井氏から「2つのPSNを観測しました。8月8日20時49分にNGC 5164のPSNは16.7等、9日02時38分にNGC 918のPSNは16.1等でした」という報告が入ります。これらは06時39分にダンに報告しました。

その日の10時46分、CBET 2783が届きます。そこには、板垣氏の発見したNGC 918の超新星2011ekが公表されていました。この超新星は、8月7日にカナダの1.82mプラスケット望遠鏡でスペクトル観測が行われ、極大光度前のIa型の超新星と報告されていました。続いて、14時17分にCBET 2785が到着します。この回報には、坪井氏が発見した超新星2011emが公表されます。この超新星は8月6日に国内でスペクトル観測され、極大光度数日前のIa型の超新星と報告されていました。8月9日17時09分に板垣氏より「毎日、暑い日が続いています。お陰さまでSN 2011ekとして公表されました。取り急ぎお礼まで」というメイルが届きます。その夜が明けた8月10日06時45分に新天体発見情報No.179を発行し板垣氏の発見、さらに、07時54分にNo.180を発行し坪井氏の発見を伝えました。坪井氏からは09時22分に「この度もお世話になりました。新天体発見情報No.180を受領いたしました。板垣さん。2012ekの関連情報でCBETで続報が流れているようですね。暗めの超新星ということで、またまた特異天体の発見になりましたね。おめでとうございます。」さらに野口氏から20時57分「新天体発見情報No.179受領いたしました。いつも報告にご尽力いただき、ありがとうございます。板垣さん。SN 2011ek発見、おめでとうございます。もう一つのPSNは天候不順で確認できていません。今夜は期待できそうなので向けてみます。坪井さん。SN 2011ehに続くSN 2011emの連続発見、おめでとうございます。このペースでは2桁(発見数)も間近ですね」というお祝いのメイルが転送されて届いていました。

ところで、板垣氏のメイルにもあるとおり、この時期、空はよく晴れていましたが、毎日、暑い日が続いていました。発見情報を発行した8月10日夕方、ベランダにあるパパイヤかハイビスカスの木の中から鈴虫の大きな声が聞こえます。『こんなに暑いのにもう秋なのか。いったいどうやってこんなところまでやって来たのかい……』と思いながら、『かわいそうに、こんな所でいくら鳴いても雌はやってこないよ』と伝えてあげました。

213P/ファンネス周期彗星

2011年7月31日、8月1日、2日夜半過ぎ、石垣島天文台の花山秀和氏から立て続けに「この彗星の分裂核を観測した」という情報がダンに送られていました。内容は「7月29日にこの彗星の尾の中に分裂核を見つけた。分裂核は主核から約5'ほど離れ、光度は20等級。翌日30日、31日にもこの分裂核を確認した」というものでした。とりあえず、関係者にこの核の観測をお願いしました。8月2日18時04分には、国立天文台の福島英雄氏より「お久しぶりです。石垣で213Pの分裂核だと思われる天体をとらえました。7月29日からの3夜の画像を並べてみました。なおこの分裂核は、7月13日、15日、16日の画像にも写っています。この頃は、ごく淡く、7月下旬に何らかの成因で急増光したものとみられます。とはいえ等級は20〜21等ですが……。回報に掲載されることを期待しております。しかし数日たって、まだ公表されていません。申し訳ありませんが、どうなっているのか、状況がわかれば連絡していただけませんか」というメイルが届きます。そこで8月3日05時42分にダンにそのことを伝えました。そして、05時51分に福島氏には『はい。情報はいただいております。ありがとうございます。何人かの方に位置を得るようにお願いしてありますが、光度目測が正しいならば、ちょっと暗いのかもしれません。主核からの分離はいつ頃なのでしょう。見かけ上の分離速度から計算できませんか。グリーンには伝えましたが、彼は、帰国後なんやかんやと忙しいようで、私のメイル(複数)にもほとんど反応がありません。困った奴です……』という返信を送っておきました。また、同時にJPLのセカニナにもこの発見を伝えておきました。

分裂核はその後も観測されます。そこで8月26日になって、OAA/CSのEMESで『石垣天文台の花山氏や国立天文台の福島氏らの観測グループは、同所の1.05m望遠鏡を使用して、2011年7月29日にこの彗星を撮影した画像上、主核から西南西に約5'ほど離れた尾の中を動く光度が20等級の副核Bを見つけました。この副核は、同所で7月13日、15日、16日に撮影されていた画像にも確認されました。さらに7月30日、31日、8月1日、2日、3日、21日にも追跡観測されました。追跡依頼を受けた東京の佐藤英貴氏も8月2日、美星スペースガードセンターでも3日と4日に観測されました。副核BのCCD全光度は、それぞれ、19.9等、20.3等、19.1等と報告されています。この副核Bは芸西の関勉氏も8月6日、また、海外でもとらえられています。なお、イタリーのソステロらがハレヤカラの2.0m望遠鏡を使用した8月9日の観測では、副核Bは21.7等まで減光していたとのことです。石垣天文台では別の副核C(22等級)を7月29日、8月1日、21日、副核D(21等級)を8月19日と21日にとらえているようです。副核Bは、8月3日には、主核の連結軌道(NK 2073(=HICQ 2011/2012))より赤経方向に約−270"、赤緯方向に約−160"離れた位置にあって、主核の近日点通過より+0.154日後の位置を動いていました。なお、この副核Bが2005年の近日点通過時に分裂した場合、その分離速度は+25.2cm/s、2011年の近日点通過時に分離した場合、その分離速度は+52.2cm/sとなります。彗星(主核)の眼視全光度をスペインのゴンザレスは7月28日に12.0等、8月8日に11.8等と観測しています。彗星は近日点通過頃に増光しています。この増光が、これらの副核の分離と関係があるのかもしれません』と仲間に知らせました。なおこの現象は、最初のメイルから1か月が経過した8月31日12時27分到着のCBET 2798に紹介されました。

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