星ナビ 2006年7月号

レポート／川村 晶

2006年7月10日

さて、実際に星空を眺めてみたが、総合的には「口径63mmなりの見え方」というのが正直な感想だ。

まずは、恒星の焦点内外像を見比べてみたが、いずれも対称性はいまひとつという印象だが、意外にも焦点距離の長い63-800鏡筒よりも焦点距離の短い63-540鏡筒のほうが対称性がよいようで、63-800鏡筒はわずかに負修正気味のようだ。色収差に関しては、当然のことながら焦点距離が長く、F値の大きな63-800鏡筒のほうが圧倒的に少ない。月面のリムや欠けぎわを見ても、ほとんど色のにじみは感じられなかった。63-540鏡筒では、確かに色収差が感じられるものの、もっともシャープに見えるピント位置で明るい輝星を観察すると、紫色の収差をかなり淡く散らしたように見える。輝星周辺に明瞭にまとわりつく感じではないのが、眼視重視設計のアクロマートということなのであろう。

必ずしも良好なシーイングではなかったが、いずれの鏡筒でも、付属のPL10mmでの観望で、土星は環に落ちる本体の影もよく見え、本体にも濃淡のあることがよくわかった。また、木星は北赤道縞（NEB）と南赤道縞（SEB）の目立つ2本の縞がしっかりと見えるのはもちろんのこと、よく観察するとそれぞれの色の違いや、縞の幅が一様ではなく、さらに縞の内部や南北の縞の間の赤道紐（EB）の濃淡も認められた。土星や木星などの惑星に関しては、倍率が高くなり、大きく見える分、63-800鏡筒のほうがより詳細に観察できる。

星雲星団もいくつか観望してみた。球状星団M13は恒星のザラツキ感はなく星雲状。系外星雲は視直径の比較的大きなM51でも存在がわかる程度の見え方だ。このあたりは光学系の評価というより63mmという口径の持つ集光力なりの見え方と言えるだろう。

二重星もいくつか眺めてみた。離角9秒ほどのいるか座γ星や、離角7秒ほどのかんむり座σなどは余裕で分離した。しかし、離角が2秒台半ばのこと座ε星の接近した2組は、手持ちのアイピースで倍率を上げて見ても、シンチレーションの影響もあってか、細長いイメージでしか捉えることができなかった。

いずれの鏡筒にも遮光絞りが入れられているので、コントラストは良好である。下弦の月を眺めてみたが、地球照の部分の模様も明瞭に認識できた。

三脚を伸ばしても鏡筒の仰角が大きくなると立ったままアイピースをのぞくのはむずかしい。写真はS63-540だが、鏡筒の長い63-800ではさらに接眼部が下がるので、天頂プリズムは必需品になる。

安心の国内自社生産

近年のケンコーは、どちらかというと商社的な色合いが濃く、天体望遠鏡関連の商品も、海外生産が多いと聞く。しかしNEW KDSシリーズは国内の自社工場での組み立てを行って、品質管理を徹底し製品ごとのバラツキを極力抑えるようにしているという。そのためかNEW KDS 63-540が78,750円、NEW KDS 63-800が68,250円という希望小売価格が設定されている。同クラスの望遠鏡としては、やや高めの価格設定だが、望遠鏡販売店の実販価格では多少の値引きも期待できる。

望遠鏡セットとしての評価では、長い鏡筒のNEW KDS 63-800では、経緯台の強度がやや不足しているように感じた。低倍率の気軽な星空観望なら差し支えないが、高倍率での観望では、ピント調整などで鏡筒に触った時の振動が気になった。とはいえ、経緯台そのものは汎用性が高く、いろいろと便利な使い道がありそうだ。

合焦部のヘリコイドや脱着式のフード以外は、オーソドックスなスタイルなので、ユーザーへアピールできるギミックとして尖った部分がもう少し欲しい気もするが、その反面、これから望遠鏡を手に入れて、星空を眺めてみたいという人にとっては、扱いやすい機種である。2機種とも口径は同じなので、焦点距離の違いによる性能差はそれほど感じない。色収差が少ない63-800か、鏡筒がコンパクトで取り回しの簡単な63-540か、という基準で選択すればよいだろう。