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2005年火星大接近

火星観測のために

火星観測のために1

25cmの望遠鏡から見た火星のイメージ

 さて、火星の軌道はかなりひしゃげた円軌道であり、接近と言ってもその距離は年によって大きく違ってきます。火星の近日点付近で接近となる場合には大接近となり、5500万キロ(視直径約25秒)まで近付きますが、遠日点付近で接近となる場合、1億キロ(視直径約14秒)にしかなりません。実に2倍近くの違い(面積的には4倍)が生じることになります。

 大接近が、火星観測のチャンスであることは、明らかなことですが、それでも、太陽系最大の惑星である木星の視直径(約45秒)と比べたら、遥かに小さいものであることが分かるでしょう。

 私など、小学生のころは「火星大接近」と問いて、火星が月くらいの大きさになるものとばかり思っていたのですが……今考えれぼ笑い話ですよね。

 このように、火星は小さく表面の模様は非常に見にくい天体ですから、これを観測するためには、光学系の優秀な、大口径の望遠鏡が欲しくなります。もし継続的な観測を行うつもりなら、最低でも口径20センチクラスの望遠鏡が必要となります。

※右の図は、25cmの望遠鏡から見た火星のイメージ

火星観測のために2

15cmの望遠鏡から見た火星のイメージ

 もちろん、小口径の望遠鏡でも大接近や中接近の衝の前後を狙えば、かなりの模様を見ることができます。口径の小さい望遠鏡しか持っていないからと言って、あきらめることなく、望遠鏡を向けて欲しいものです。

※右の図は、15cmの望遠鏡から見た火星のイメージ

 火星は、表面の反射能が大きく単位面積あたりの光量が豊富な惑星ですから、ある程度高倍率をかけて見ることができます。口径をセンチで表した数の20倍(シーイングの良い日ならさらに高倍率で)くらいの倍率まで、思い切ってあげてしまった方が良く見えます。倍率が低いと表面が明るすぎて、淡い模様などまず見ることができなくなってしまいます。

 火星がまぶしくなくなるくらいまで、とにかく倍率を上げてみてください。光学系(主鏡はもちろん接眼レンズも良いものを)が優秀で、しかも大気が安定しているときならば、あのローウェルやアントニアッジが見たような火星面を貴方も見ることができるかも知れません。また、フィルタを併用することで、模様のコントラストを上げたり、大気現象等を観測しやすくすることができます。赤やオレンジのフィルタを使えば火星表面の模様のコントラストを上げることができますから、模様が淡くて見にくい場合には是非試してみてください。最近では惑星の模様のコントラストを上げる外国製の特殊フィルタ(バーダー製など)もありますので、試してみるといいでしょう。また、黄色や緑色のフィルタは黄色い雲や白色地帯の詳細を観測するのに適しています。

 「惑星観測の最大の上達法は、目の鍛錬である。そのためには、何時間も何十時間も惑星を観測し、目を惑星面の淡い模様に慣らすこと。そして、一度でいいから大望遠鏡で惑星を見せてもらうことである」と思います。アイピースの視野の中の火星を長期間眺めていると、少しづつ細かい模様が見えてくるようになってきます。晴れたらとにかく望遠鏡を向けて火星を見ることが肝要なのです。

火星観測のために3

 惑星観測を始めた頃、同じ望遠鏡を覗いた先輩が描き上げる木星面のスケッチを見て、何であんなに良く見えるのだろう? と、不思議に思った時期がありました。私には、どう見てもそんな細かい模様が見えないのです。しかし あるとき、某天文台の口径60センチ反射望遠鏡で木星を見せてもらう機会を得ることができました。大望遠鏡で見る木星面は素晴らしく、時のたつのも忘れて…食い入るようにアイピースを覗き込んでいたことを記憶しています。

 それからです。自分の望遠鏡で惑星面の模様の細部が見えるようになったのは……。はじめは目の錯覚かと思っていたのですが、細かい模様が自転していく様子が手に取るように分かるようになったのです。昨日までと同じ望遠鏡で見ているとは思えない驚きでした。

 要するに馴れの問題なのです。惑星面を観測するコツは馴れる以外にはないと言っても過言ではありません(もっとも、最近は高感度CCDカメラなる文明の利器が登場し、はじめての人でもモニタ上に写し出された惑星像をいとも簡単に観察することができるようになってしまいました。アイピースの中の生の惑星面を見せるより、モニタに映し出される惑星像の方が、初心者にはズーっと見やすいのです)。

 大きな望遠鏡で、シーイングの長いときに見る惑星面は、筆舌につくし難い美しさをもっています。「まるでボイジャーの写真のよう」とまでは言いませんが、はじめての人でもそこそこの模様を見ることができます(それでも、熟練した観測者の目にはかないませんが)。そして、惑星面の模様の見え方が分かれば、小口径の望遠鏡でも、かなりの模様を見ることができるようになってきます。淡い模様を見るコツが自然と身についてしまうのです。

 最近では全国各地に大型の望遠鏡を備えた科学館やプラネタリウム、あるいは個人の天体観測所がありますので、そういった所で是非一度見せてもらうようにしましょう。

 遥か18世紀の偉人達の多くは、小口径の望遠鏡で惑星を観測し、運河や極冠、そして多くの模様を記録に残しています。自分の望遠鏡が小さいからと言って悲観することはありません。現在の望遠鏡は、当時とは比べ物にならないくらい、高性能なのですから……。

 自分の望遠鏡で見る惑星達の素顔は、その口径の大小にかかわらず、私達に深い感動を与えてくれるものです。この感動を、多くの人に伝えられたらなあ……。

天体望遠鏡で惑星を楽しもう

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