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ディープインパクト計画

計画の概要

ディープインパクト計画とは

(ディープインパクト探査機とインパクター) 「ディープインパクト計画(Deep Impact Mission)」は、NASAの彗星探査計画です。その最大の特徴は、目標天体であるテンペル彗星(9P/Tempel)の核(中心部)にインパクター(衝突機)を衝突させ、表面にできると考えられるクレーターや内部から噴出する物質を観測するという点です。

※右の写真は、ディープインパクト探査機とインパクター(下)。提供:Ball Aerospace & Technologies Corp.

インパクターの重量は約370kgですが、衝突速度が秒速10kmと高速のため、彗星核にはひじょうに大きな衝撃が加わります。表面には深さ数十メートル、大きさ数十〜数百メートルのクレーターが形成され、続いてさまざまな現象も見られるかもしれません。彗星の変化は、インパクターを分離した後も観測を続ける探査機によって捉えられるだけでなく、すばる望遠鏡など地上の大型望遠鏡からも観測が予定されています。

(ディープインパクト探査機の航路図) 彗星探査機「ディープインパクト」は、2005年1月13日に打ち上げられました。テンペル彗星にインパクターが衝突するのは、約半年後の7月4日(アメリカ独立記念日)の予定です。そのおよそ1日前に探査機からインパクターが分離され、自律航行によって彗星の核へと向かっていきます。

なお、インパクターにはキャンペーンで募集した約63万人の名前を収録したCDが搭載されており、これらの人々の名前をテンペル彗星に届けるという役割も果たします。

計画のユニークな点

ディープインパクト計画がこれまでの彗星探査、あるいは、他天体のさまざまな探査と大きく異なるのは、「天体を外から観測するだけでなく、影響を及ぼしてその変化を調べる」ということです。これまでにも、彗星の核に大接近してその表面を観測した例や、惑星や衛星に「着陸」してさまざまな観測を行った例はありますが、衝突させて天体の一部を破壊する目的の探査は例がありません。

探査で何がわかるのか

「汚れた雪玉」と形容されることもある彗星の核は、水の氷など揮発性の物質を大量に含んでおり、それらが太陽によって熱せられて蒸発していきます。

(ハレー彗星の核の画像) 一方で、彗星には塵や岩石など不揮発性の物質も含まれており、これらは彗星の表面に殻となって残されています。ハレー彗星の核に接近して観測した結果によると、核の表面は反射率がひじょうに小さくて黒く、ところどころに割れ目があってそこからガスや塵が吹き出しているようです。

※右の写真は、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の探査機ジオットが撮影したハレー彗星の核。1986年撮影。提供:ESA

この殻の成分や固さ、厚さ、さらに殻の下に何があるのかといったことは、外からの観測だけではなかなかわかりません。そこで、インパクターを核に衝突させて殻を破り、殻やその下のようすを探ろうとしているのです。

彗星の変化

(衝突時のイメージ) 衝突によってテンペル彗星にどのような変化が見られるかについてはまったく予想がつかず、彗星観測者や専門家の間でも意見が分かれています。

まず、表面にクレーターができるだろうという点に関しては概ね一致した意見が得られていますが、その深さや大きさについては殻の構造にもよるため、意見は分かれています。

また、殻を破った彗星核から何が出てくるのかについては、「何も出てこない」「ガスと塵が出てくる」「塵だけが出てくる」とさまざまな意見があります。何がどのくらい出てくるのかによって、彗星が明るくなるかどうかも変わってきます。地上からも変化の様子を捉えたいということになると、大量のガスと塵が噴出することを期待したいところですが、どうなるかはまったく不明です。

地上からはどう見える

インパクターの衝突予定時刻は日本時間で4日15時ごろです。すばる望遠鏡があるハワイでは日没直後で、日本ではお昼にあたるので、すばる望遠鏡は衝突の瞬間から、日本では衝突から数時間後から観測可能になります。もし衝突後の変化が衝突数時間後から見え始めるとすれば、日本が観測好適地になるかもしれません。すばる望遠鏡だけでなく、国内の観測からも貴重なデータが得られるかもしれません。

彗星に変化があった場合でも、一般の人がその変化を捉えるのは難しいかもしれません。テンペル彗星の明るさは9〜10等級と暗く、たとえ衝突によって増光したとしても劇的には明るくならないだろうと考えられているからです。

しかし、「何が起こるかまったく予想がつかない」のもまた事実です。1994年にシューメーカー・レビー彗星が木星に衝突した際に、予想に反して小型の望遠鏡でも衝突の痕跡が捉えられたという例もあります。ぜひご自分の機材で観測・撮像してみてください。また、機材をお持ちでない場合には、お近くの公開天文台や科学館に観望会がないかどうか問い合わせてみるのもよいでしょう。

テンペル彗星について

(テンペル彗星の画像) テンペル彗星(9P/Tempel)は1867年にフランスのテンペルによって発見された彗星です。しばらく見失われていた時期もありましたが、現在は軌道が精度よく求められており、5.5年周期で太陽の周りを公転しています。彗星核の大きさは直径6km程度で細長い形をしていると考えられています。さらに詳しいことはディープインパクトによって明らかにされるでしょう。

※右の写真は、地球最接近の頃のテンペル彗星。2005年4月11日撮影。提供:Dr. Tony Farnham and Matthew Knight (University of Maryland)