ステライメージ7・天体画像処理コンテスト

総評

コンテストは3部門21作品で競われました。部門賞はウェブで行われ、約2000票の投票がありました。

通常のコンテストとは違い「ステライメージ7」の「ワークフロー」で応募するという限定された方式でしたが、多くの素晴らしい作品が集まりました。

このコンテストは、賞が決定した時点で終わりではありません。各作品の画像と共にワークフローも掲載されているので、画像処理のテクニックを共有したり自分なりにアレンジしたりできます。

吉田隆行さん(天体写真家/画像処理コンテスト元素材提供)

今回の画像処理コンテストでは、さまざまな「ワークフロー」のデータが集まりました。応募された方々それぞれに処理の工程が異なり、中にはマスクを使った高度なテクニックを披露された方もいらっしゃいました。今回のコンテストでさまざまな画像処理行程を拝見できたのは、画像を提供させていただいた私にとってもたいへん大きな刺激になりました。

応募作のワークフローに記録された工程を見ると、「散光星雲部門」では色合いの強調と星雲の滑らかさを、「銀河部門」ではシャープ感を重視した工程を組んでいる方が大半でした。私も皆さんと同様に、星雲と銀河では処理のポイントを変えています。やはり被写体によって、美しく仕上げるための処理は異なってくると思います。「彗星部門」では、尾や頭部の構造の描出と背景宇宙の粗れ(ノイズの増加)のバランスに苦労されたようです。

また、全体的に見て、カラーバランスや色彩度の加減に苦労されている方が多いように感じました。レベル補正のRGBの各パラメーターを微調整することによって、おおよそのカラーバランスを合わせることはできますが、それに加えて「オートストレッチ」機能を効率的に使われている方ほど、うまく調整できているように思います。実際、そのような方の画像は、投票でも高いポイントを得ていますので、オートストレッチは効果的なカラーバランス調整コマンドといえるでしょう。「ステライメージ7」に追加された新機能ですので、私も、今後さらに使いこんでいきたいと思います。

ところで、一般的なソフトの「ヒストリー(履歴)機能」のように、ワークフローに同じ画像処理の工程が何度も記録されているケースがありました。「ワークフロー」機能の使い方は人それぞれですが、「ステライメージ7」の「ワークフロー」機能の利点の一つは、記録した工程のパラメータを後からいつでも編集できることです。同じ処理工程の記録は一度にして、必要があれば、そのパラメータを変更することによって微調整していくのがよいでしょう。

「ステライメージ7」に搭載された「ワークフロー」機能は、使いこなせばたいへん便利な機能ですが、使い方に戸惑っている方も多いのではないかと思います。今回の画像処理コンテストは、ワークフローのさまざまな使い方を提示するという点でも有意義なものでした。応募作品のワークフローはアストロアーツのWebページで公開されていますので、それを見れば、コンテストの参加者がどのような工程で元画像を処理していったのか一目瞭然です。ぜひ、ここからヒントを得ていただければと思います。そして、今後も多くのすばらしい作品が生まれることを楽しみにしています。

星ナビ8月号に解説記事を掲載

『星ナビ』2013年8月号の記事サンプル

『星ナビ』2013年8月号(7月5日発売)に、吉田隆行さんが執筆した「ワークフロー」機能についての解説記事(4ページ)を掲載。工程の記録や数値の変更、処理の追加などについて詳しく紹介しています。

ウェブでも同内容をご覧いただけます

上山治貴さん(ステライメージ開発主任)

「ステライメージ」のユーザーからの問い合わせで返答に一番困るのが「どうやったらきれいに天体画像を処理できるのか」というものです。天体写真を仕上げるための画像処理は複数のステップで構成されています。基本的な処理は同じでも、散光星雲、銀河、彗星など対象によってポイントを変えながら適切な処理をしていく必要があります。

美しさの基準も人によってさまざまです。背景の黒の締まり具合、星雲中心の高輝度部の明るさの調整など、これといった正解があるわけではありません。「ステライメージ」の操作方法を答えることはできても、画像処理のコツを伝えるのはなかなか難しいものでした。

そこで、ユーザーの皆さんが日ごろ行っている画像処理プロセスをみんなで共有できたら…、というのがこのコンテストの発端でした。ステライメージには、画像処理の過程を記録することができる「ワークフロー」という機能があります。これを使えば、いつでも誰でも同じ画像処理を再現することができます。また、同一の元素材を使うことで、画像処理のプロセスの違いが浮き彫りになると考えました。ワークフローを集めるだけでなく、応募いただいた全作品を公開し、これもWeb時代にふさわしいように投票形式で「部門賞」を選出しました。

応募作を眺めると、同じ素材を使っているにもかかわらず表現方法がさまざまであることが見て取れます。通常のコンテストでは結果しか見ることができませんが、このコンテストはワークフローの公開、画像処理のテクニックの共有というステップが待っています。みなさんの画像処理上達のお役に立てれば幸いです。

全応募画像とワークフローは、アストロアーツのWebページで公開中です。「ステライメージ7」をお持ちであれば、ぜひワークフローをダウンロードして、応募作の画像処理過程をご覧になってください。「ステライメージ7」のワークフロー機能で、画像処理工程を1ステップごとに追うことができますので、処理の過程を完全にトレースすることができます。処理フローの概要を把握したら、各工程のパラメータを変えて画像がどう変化するか試してみてください。各ステップがどんな役割を担っているかを知ることができます。画像処理のエキスパートの方も、いろいろな方の処理法を参照するまたとない機会かと思います。

『星ナビ』2013年11月号(10月4日発売)でも受賞作を掲載しています。