あの人が選ぶ思い出の彗星 ― 藤井旭さん

天文業界で活躍中の方々に、これまで見てこられた彗星の中からもっとも印象に残っている彗星を取り上げていただき、そのときの思い出を語っていただきました。気になるあの人はどんな彗星を一番思い出深く思っているのでしょうか?

第1回 藤井旭さんが選んだ思い出の彗星 「ベネット彗星(1970年) C/1969 Y1

(藤井旭さんが選んだベネット彗星の写真)

撮影日時:
1970年4月4日
撮影地:
白河天体観測所
撮影者コメント:

長い尾をひいて夜空にかかる彗星の姿は、天文ファンの誰もがあこがれを募らせるものがありますが、私の場合は星に興味を持ち始めたころから、具体的にあこがれの彗星というのがありました。76年ごとに戻ってくるあのハレー彗星でした。1910年に勇姿を目撃した父親が語るそのようすに目を輝かせて聞き入り、何度ともなく同じ目撃談に耳を傾けながら、自分も何歳になればハレー彗星に出会えるのだなぁと、遠い将来のことなのにわくわく胸を高鳴らせたものでした。肉眼彗星の最初の出会いは、1956年のアラン・ローラン彗星で、1959年のムルコス彗星、1965年の池谷・関彗星と続き、ハレー彗星よりひと足先に興奮させられてしまうことになりましたが、1970年春のベネット彗星は、数年がかりの頑張りで完成させた白河天体観測所の活動開始直後のことでもあり、ぶどう色の朝焼け空に20世紀もっとも明るくなった彗星の長く尾をひく優雅な姿を、まだ何の設備も整っていなかった屋上にたたずんでいたチロとともに見入ったことが、昨日のように思い出されて胸が熱くなります。

藤井 旭(ふじい あきら)

1941年山口県生まれ。多摩美術大を卒業後、星仲間と共同で那須高原に白河天文観測所を作り、天体写真家として国際的にも活躍。著書多数。福島県郡山市に在住。

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