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超高エネルギーの宇宙線


【1998年9月3日 国立天文台天文ニュース(200)】

 宇宙線は宇宙空間を光速に近い速さで移動する非常にエネルギーの大きい粒子で、銀河間をつらぬいて走る粒子としてただひとつ検出されているものです。 粒子は主として陽子ですが、さらに質量の大きい原子核のこともあります。 特にエネルギーの高い粒子は、活動銀河核、ガンマ線バーストなどから生じるのではないかと推測されますが、はっきりしたことはわかっていません。

 これらの宇宙線は、長距離を移動するうちに、宇宙背景放射のマイクロ波との相互作用によって速度が落ち、10の19乗電子ボルトの5倍程度までにエネルギーが減衰することがわかっています。 この限界をグレーセン・ジョセピン・クズミン限界(Greisen-Zatsepin-Kuz'min cut off; GZK cut off)といいます。

 エネルギーの高い宇宙線が大気に入射すると、大気原子と衝突してたくさんの2次粒子を作り出し、それがまた別の原子などに衝突して3次、4次と繰り返しシャワー状に粒子を発生します。 この現象を空気シャワーといい、最後にはかなりの面積に広がって地上に到達します。 地上にたくさんの検出器を配置しておくと、たくさんの粒子がほとんど同時に到達しますから、空気シャワーの発生、つまり宇宙線の到達がわかります。 到達時刻の差から、宇宙線のやってきた方向もわかります。

 この種の宇宙線を検出する装置で世界最大の規模をもつもののひとつに、東大宇宙線研究所が山梨県明野村に設置した、明野広域空気シャワーアレイ(Akeno Giant Air Shower Array;AGASA)があります。 これは約100平方キロメートルの範囲に検出器を111個配置したもので、それぞれの検出器は2.2平方メートルの検出面積をもち、光ファイバーで中央コンピュータに接続されています。

 宇宙線研究所、竹田成宏(たけだまさひろ)らのグループは、この AGASA による観測で、1990年から1997年の間に、10の20乗電子ボルト以上のエネルギーをもつ宇宙線を6回も観測しました。 これは前記の GZK限界を越えるエネルギーをもつもので、GZK限界が事実上存在しないことを示すものです。 このような宇宙線が検出されたことは、その起源が非常に遠いものではなく、50メガパーセク、1億6000万光年より近いことを意味します。 しかし、これらの宇宙線のやってきた方向には、いまのところ、特定の系外電波源やガンマ線源は発見されていません。 これらが検出された事実は、その起源の追及を含めて、高エネルギー宇宙線物理学をさらに興味深いものにします。

 上記 AGASA 以外にも、世界でさらにいくつかの大規模な宇宙線検出装置、たとえば1600個の検出器を3000平方キロメートル範囲に分布させて、AGASA の30倍から40倍の感度をもつものなどが計画されています。 こうした状況をみると、これら高エネルギー宇宙線にまつわる謎の解ける日も、そう遠いものではないように思えます。

参照 Takeda,M. et al., Physical Review Letters 81,p.1163-1166(1998).

Normile,Dennis, Science 281,p.88-89,(1998).


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