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観測史上もっとも明るい天体


【1998年7月16日 国立天文台天文ニュース(191)】

 「もっとも遠い天体が発見された」というニュースがときどき報道されます。 この天文ニュースでも、(17),(117),(142)などで、そのような情報をお伝えしました。 ここからもわかりますように、最遠の天体の記録はすぐに破られます。

 しかし、「もっとも明るい天体」の記録はそう簡単に書き換えられることはありません。 そして、これまで、IRAS F10214+4724 という銀河が、ずっとこの記録を保持していました。 ここで、この記録を書き換える、さらに明るい天体、APM 08279+5255 が発見されたことをお伝えします。

最も明るい天体

 これまでのチャンピオンから説明しましょう。 長い名なので、単に F10214 と呼ぶことにします。 この F10214 は、1991年に赤外線観測衛星IRASが、銀河の赤方偏移を観測しているときに「おおぐま座」で発見されました。 このとき IRAS が観測していた銀河は、そのほとんどが赤方偏移 z=0.1 程度のものでしたが、この F10214 は z=2.3 という格段に大きい赤方偏移を示しました。 これはおよそ100億光年の距離に相当します。 そして、この距離から光度を計算すると、太陽の10の14乗倍のさらに3倍の明るさになり、それまでに観測された中ではもっとも明るい天体と認められたのです。 しかし、実をいうと、この数値がそのまま銀河の真の明るさというわけではありません。 なぜかというと、F10214 の手前に別の銀河があり、その重力レンズ効果で F10214 は約40倍の大きさに拡大されているからです。 そのため、見かけの明るさも当然大きくなっています。 したがって、銀河自体の真の明るさは、上記の値よりかなり小さいはずです。

 この明るさを打ち破る新しいチャンピオンは、アーウィン(Irwin,M.J.)らが、銀河系のハロー内の低温炭素星の速度測定のため、スペクトル観測をしているときに「やまねこ座」で発見したものです。 これも短く APM08279 と呼ぶことにしましょう。 始めに恒星かと思われたこの天体は、やがて赤方偏移 z=3.87 のクェーサーであることがわかりました。 距離にして約110億光年です。 そして、計算された光度は太陽の10の15乗倍のさらに5倍に達しました。 つまり F10214 より10倍以上も明るいのです。 こうして、最も明るい天体の記録が書き換えられました。 しかし、この APM08279 も、ほとんど視線上の位置に3個の銀河が存在することがわかっていますから、F10214 と同様に、重力レンズ効果で見かけの大きさも明るさも拡大されていることはほぼ確実です。

 これらの観測はいずれも赤外波長でおこなわれています。 一般に、宇宙空間にあるダストは、恒星や活動銀河核が放射する可視、紫外波長の電磁波を受けて熱せられ、そのエネルギーを赤外波長に変えて再放射します。 したがって、赤外波長でこのように明るい天体が観測されたことは、遠い宇宙にも大量のダストが存在することを例証したものといえるでしょう。

参照 Blain,Andrew Nature 393,p.520-521(1998).


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