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ガンマ線天文学の新時代

国立天文台・天文ニュース (137)


【1997年10月23日 国立天文台・天文ニュース】

 ガンマ線バーストについてはこのニュースでもすでに何回かお伝えしました。天球の 一角で突然に強力なガンマ線の放射が観測される現象がガンマ線バーストです。この現 象は1960年代に発見されましたが、その発生の理由も原因天体もわからず、現代天文学 の最大の謎ともいわれてきました。

 しかし、その情勢は変わりつつあります。ガンマ線観測衛星ベッポ・サックスが、今 年の2月28日に「オリオン座」で、また5月8日に「きりん座」でガンマ線バーストを捉 えてその位置を特定し、その後の地上観測などで原因天体が出している、しだいに薄れ ていく残存放射を、X線で、可視光で、あるいは電波で観測することができたからです。 そして、この原因天体は遠方の矮小銀河にあるらしいことが推定され、5月8日のバース トでは、そのスペクトルから Z=0.835 という距離も求められました。これはほぼ70億 光年の距離に相当し、ガンマ線バーストはわれわれ銀河系周辺で起こっているものでは なく、はるか遠くの銀河での現象であることがわかったのです。

 今年の9月15日から20日にかけて、アメリカ、アラバマ州ハンツビルで、ガンマ線バ ーストに関する第4回ハンツビル・シンポジウムが開催されました。このシンポジウム の中心的話題は、もはやガンマ線バーストが「どこで起こっているか」というところか ら離れて、「どんなメカニズムで起こるのか」という理論的問題に移ったのです。こう して、ガンマ線バーストを探ることは、遠距離の宇宙、つまり初期の宇宙を探るカギに なる可能性も考えられるようになりました。高エネルギー天文学の新時代の幕明けとい ってもいいでしょう。

 このシンポジウムで提出された、ひとつの重要な新しい考え方に、「ガンマ線バース トは大質量星が最後に迎える大爆発に関係している」というものがあります。そうだと すると、ガンマ線バーストの出現数は大質量星の生成数に比例することになります。こ れまでの観測から、大質量星の生成数は赤方変移 z=1 のところにピークがあり、そこ では現在の10倍の生成数があります。クリムソン大学のハートマン(Hartmann,D.)らに よれば、こうした点から議論を進めると、ガンマ線バーストは一般に距離が非常に遠い ことになり、さらに放射が等方的という仮定では、ひとつのガンマ線バーストで放射さ れる本質的なエネルギー量は10の53乗エルグという膨大なものに達するという結論が導 かれるそうです。

 プリンストン大学のパチンスキー(Paczynski,B.)らは、ガンマ線バーストは星生成領 域であろう濃密な星間雲と関連している可能性があるという別の考えを述べています。 これはこの8月28日に観測されたガンマ線バーストのX線スペクトルから、高密度のガス 雲の存在が検出されたことによっています。しかし、「これは決定的な結論ではない」 と本人もいっています。はっきりした結論を得るためには、おそらく、あと100個くら いのガンマ線バーストの残存放射を観測する必要がありそうです。

参照 Paczynski,B. et al., Nature 389,p.548-549(1997).

1997年10月23日        国立天文台・広報普及室



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