月食を見よう!


■9月17日の明け方、
 日本全国でひさしぶりに月食が見られます

●いつ、どこで

9月17日の明け方、日本では4年3か月ぶりに皆既(かいき)月食がおこり、 それを全国から見ることができます。
朝の2時8分ころから欠けはじめ、3時15分から4時17分までが皆既、 そして5時25分に月食が終わります。
月食のおこる時間や、欠けぐあいなどは全国のどこから見ても同じです。
ただし今回の月食は、明け方の月が沈むころにおこるので、 観測する場所によって月食の見やすさがかわります。

食の様子食の様子

●皆既月食って

月食は、地球の影の中に月が入り込んで、月が端から暗く欠ける現象です。
皆既月食とは、月が地球の影にすっぽりと入って、全部欠ける月食のことです。
部分的にしか欠けない月食は部分月食といいます。

月食中の月の動き月食中の月の動き 月食のしくみ月食のしくみ

●見どころは

皆既月食の見どころは、皆既中に次が地球の大気で屈折した光で赤くなる 現象です。
これは肉眼でもわかりますが、双眼鏡や望遠鏡があればもっといいでしょう。

●この次の月食はいつ

ちなみにこの次に日本で見られる部分月食は1999年の7月28日、 皆既月食は2000年の7月16日です。
ここ数年は月食が少ないので、このチャンスにぜひ見ておきましょう。
また、月食を写真撮影するテクニックも、下の記事の中で紹介しています。 ぜひ挑戦してみてください。


■スカイウオッチャー連動記事
 「ことしの名月は皆既月食」

スカイウオッチャー97年9月号より 原稿協力:川村 晶

9月16日の夕方に東の空から昇る満月はいわゆる中秋の名月だが、 日付が変わった翌17日未明にこの満月が地球の影に入って皆既月食が起こる。
今回の皆既月食は、全国で見られるものとしては93年6月以来、 じつに4年3か月ぶりの現象だ。 「そういえば最近、皆既月食って見ないよなぁ」と思っていた人も 納得する久しぶりの皆既月食なのである。 しかも次回は3年後なので、この貴重な皆既月食は絶対に見逃すことはできない。

●場所別観測条件

 さて、全国で見られるといっても、前回の93年6月ほど条件はよくない。 月食は日食と違って月が地球の影で隠れていく進行状況はどこでも 同じに見えるが、今回の皆既月食は月が西に傾いてから起こるため、 月没時刻と薄明開始時刻が遅くなる西日本ほど条件よく 見ることができることになる。 東日本では皆既食の途中で薄明が始まってしまったり、 月が完全に復円する以前に月没を迎えてしまうのである。

・沖縄那覇では、本影食による現象をほぼすべて見ることが可能だ。 月が半分以上明るさを取り戻す5時くらいから薄明で空が白み始めるが、 本影食終了までくらい空での観望が可能となる。 本影食終了時の月の高度も12度ほどと、やや低いものの申し分ないだろう。

・東京では、皆既食の後半ですでに薄明が始まる。 したがって、残念ながら食の終わりごろには周囲がかなり 明るくなっていることだろう。しかも食の終わりと同時に月没を迎えるので、 暗い空で条件よく見ることができるのは皆既食までということになるだろう。

・札幌では、皆既食の最大を迎える前に薄明が始まってしまう。 また本影食が終了する以前に月は欠けたまま地平線に 沈んでいってしまうことになる。

★各地でのようす

札幌でのようす
残念ながら、北海道はもっとも条件が悪い。 札幌では月が欠けはじめる時刻で月の地平高度が約30度と低く、 皆既月食の前半ですでに薄明が始まってしまう。元の満月に戻る 部分月食後半は空が明るいだろう。部分食が終わり元の満月に 戻る(復円)とほぼ同時に月が沈む。

仙台でのようす
月が欠けはじめる時刻で月の地平高度が約33度ほどと低い。 また、皆既食の最大をすぎてすぐに薄明が始まるため、それほど条件はよくない。 やはり、北海道と同じように復円とほぼ同時に月が沈んでしまう。

東京でのようす
月が欠けはじめる時刻で月の地平高度が約35度を越え、 皆既食の後半に薄明が始まるので、皆既食の最大に頃までは暗い空で 見ることが可能だ。それでも、皆既食の最大で月の地平高度が20度ほどと、 条件がよいとはいえない。

大阪でのようす
月が欠けはじめる時刻で月の地平高度が約40度と国内では比較的条件が よいといえる。また、皆既食の終了とほぼ同時に薄明が始まるので、 月の地平高度はやや低いものの、皆既食中は暗い空で じゅうぶん楽しめるだろう。

福岡でのようす
九州では、かなり条件がよい。福岡では月が欠けはじめる時刻で 月の地平高度が40度を越え、皆既食の終わりの時刻でも20度を越えている。 皆既食が終わってから薄明が始まるので、 皆既食中は暗い空で楽しめるだろう。

那覇でのようす
国内ではもっとも条件がよくなる。月が欠けはじめる時刻では 月の地平高度が50度を越え、皆既食の終わりの時刻でも25度を越えている。 薄明が始まるのは部分食も終わりごろなので、 月食を楽しむには申し分ない条件だろう。

●月の場所

 月はうお座とみずがめ座の境界にあり、土星が落ち着いた輝きを 見せているくらいで、これといって明るい星は近くになく、 比較的星の少ない位置で月食が起こる。 また、近くには大型の明るい星雲星団もない。

●皆既中の月の明るさに注目

 月食をながめる場合、とくに注意したいのが皆既中の月面の明るさである。 月が欠けていくように見えるのは地球の本影に月が入っていくわけだが、 よく知られているように本影の中は完全な闇ではない。 じつは、地球の外周を通り抜けてくる太陽からの光が大気によって散乱され、 月面をわずかに照らすのである。なかでも夕焼けと同じ原理で 波長の長い赤い光が選択的に大気を通り抜けるために、 皆既中の月面はオレンジ、または赤銅色というような赤系の色に見えるのである。

 この皆既中の月面の明るさや色については、地球の上層大気に含まれる チリと深い関連があることが近年になってわかってきている。 前回に全国で見られた93年6月の皆既月食では、皆既中の月面の明るさは 比較的暗く、町中の明るい場所では月の存在を確認するのさえむずかしかった。 これは前年に噴火したフィリピンのピナトウボ山の噴煙によって、 地上高度20キロメートル付近にエアロゾル層と呼ばれるチリの層ができたため、 大気を通り抜ける光が減少して皆既中の月面を照らす光が 少なくなったためと考えられている。 同様に、メキシコのエルチチョン山が噴火した9か月後に起きた82年12月の 皆既月食も、このエアロゾル層の形成によってきわめて暗い 皆既月食として記録されている。

 こうした点から、ある程度は皆既中の月面の明るさを予測することが 可能であるが、今回の月食ではどうだろうか。93年6月のの皆既月食以降、 きわめて大規模な火山の噴火はなく、また今年3月に南北アメリカで 見られた月食でもそれほど暗いという観測はされていないようだ。 また、月が本影の中心に近くなれば、それだけ地球の外周を通り抜けてくる 光が弱くなるために、月面の明るさは暗くなる。 しかし、今回の月食では、月は本影の中心から離れたところを通る。 したがって、これらの状況から考えると今回の皆既中の月面の明るさは、 それほど暗くはならないのではないかと予想されている。 皆既中の月面の明るさを見積もる指標のひとつとして、 ダンジョンスケールとばれる5段階が設定されているが、今回の月食では、 どのくらいの数値なるのか、ぜひとも観察してみたい。 ダンジョンスケールに関しては次の通り。

0:きわめて暗い。 肉眼ではほとんど見えない。
1:暗い。灰色・褐色。 表面模様の識別が困難。
2:暗赤色・錆ぴ色。 本影付近かなり暗い。
3:レンガ色。 本影縁は明灰色。貴色。
4:明るい。赤銅色・オレンジ色。 本影・半影の境界域が青みがかる。

 ちなみに93年6月の皆既月食は、このダンジョンスケールによると 1前後という評価がされている。

 また、部分食の途中で、本影の縁が円弧にならず、歪んで見えることもある。 原因ははっきりしていないが、皆既中以外にも月面の明るさの変化には 注目していたいものである。

●月食を記録に残そう

 ここ数年に限ってみれば、なんともめずらしい天文現象となってしまった 今回の皆既月食だが、今後に見られる月食と比較するためにもスケッチや 写真などで記録に残しておきたい。

 スケッチでは、あらかじめ月面図をコピーしておいた紙に色鉛筆などで、 色を塗っていくとよい。実際にスケッチをとってみると、 食の進行は思っている以上に早く感じられるはずだ。 手早く書いていかないと、食が進行してしまうので注意したい。

 また、記録として写真を撮るのもよいだろう。望遠鏡直焦点での欠けていく 月の撮影は、普通の月面撮影とそれほど変わることがないが、 欠けていくほど露出を長くする必要がある。また、露出は基準となる値から 前後数段ずらして、数コマ撮影しておくことをおすすめする。 さらに、今回のように地平高度が低い場合は、 大気の減光も考慮しなくてはいけない。

 皆既中の月面の明るさについては、予想が難しく適正露出が得にくいので、 何段階か露出を変えて撮影しておきたい。皆既中の露出時間は、 通常の月面撮影と比較して露出時間がひじょうに長くなるが、 月には日周運動以外に固有の運動があるので、あまり長時間の露出を 行うと赤道儀で恒星時追尾を行っていても月がブレて 写ってしまうので注意が必要だ。露出を短く切りつめるために 高感度フィルムを使用するか、 月追尾が可能なモータードライブ装置を使用したい。

 広角のカメラレンズでは、固定撮影で欠けてゆく月を1コマのフィルムに 連続して写し込んでいくのがおもしろいだろう。 東日本では皆既食が終了する前に薄明が始まり月が沈んでしまうので、 全経過が条件よく撮影できるのは、やはり西の限られた地域となる。 しかし、東日本では薄明を利用して、全景に山などの風景を写し込むとよいだろう。 皆既中の月面が暗い場合には、皆既中の月を入れた広角写野の星野写真の 撮影が可能だ。ただし、今回は月の近くに明るい星が少なく、 やや地味な画面になってしまうかもしれない。

 もちろん、記録としては記憶に留めておくだけでもかまわない。 どちらにしても久しぶりの皆既月食である。それぞれの方法で、 じゅうぶんに楽しみたいものである。

★写真撮影のためのデータ表


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