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小惑星マチルドの質量と密度

国立天文台・天文ニュース (152)


【1998年1月8日 国立天文台・天文ニュース】

小惑星マチルド  昨年6月27日に、宇宙探査機ニア(Near Earth Asteroid Rendezvous;NEAR)が 小惑星(253)マチルドに接近観測をおこないました(天文ニュース113)。 そのときの観測データが詳細に解析された結果、 マチルドの質量は1.033x10の23乗グラム、また平均密度は、 1立方センチ当たり僅かに1.3グラムしかないことがわかりました。

 ニアは世界時の6月27日12時55分54.5秒に、毎秒9.93キロメートルの相対速度で、 マチルドから1212.2キロメートルのところを通過し、 口径比3.4の屈折望遠鏡に取り付けたCCDカメラで534枚のマチルドの撮像、 その他いくつかの観測をおこない、そこから上記の解析がなされたのです。 この撮像に要した時間は約25分でした。マチルドは自転周期が17.4日で、 非常にゆっくり自転しているため、その表面の半分程度しか観測できませんでした。 しかしそこには、直径19キロメートル以上もある大クレーターが5つも見られ、 最大のものは直径33キロメートルもありました。 この観測から得られたマチルドの大きさは、 三軸楕円体近似で直径が66x48x46キロメートル、 体積は7万8000立方キロメートルでした。

 小惑星の質量を決めるのはたいへんに困難な作業です。 これまでに一応の精度で質量が求められたのは、(1)ケレス、(2)パラス、 (4)ベスタなど比較的に大きいものと、探査機が接近した(243)イーダなど、 ほんの数個だけです。 天体の質量を決める方法はただひとつ、 その天体の引力が他の天体の運動にどの程度影響を与えるかを 観測するしかありません。 よく知られているように、引力の大きさはその質量に比例し、 影響を与える天体までの距離の2乗に反比例します。 したがって、求めようとする天体の質量が大きいほど、 また影響を受ける天体の距離が近いほど、質量の決定は容易です。 しかし、一般に小惑星は質量が小さく、また、 そこに近づく天体もめったに観測できないため、小惑星の質量決定は困難なのです。 これに反して、探査機は非常に近くまで小惑星に接近しますから、 その軌道を精密に観測することによって小惑星の影響がわかり、 小惑星の質量が決定できるのです。

軌道図

 今回の解析でマチルドの質量、平均密度が求められました。 一方マチルドはC型の小惑星であることがわかっています。 C型はコンドライト隕石と似ている小惑星で、 特にマチルドはその表面スペクトルがCM型炭素質隕石ととてもよく似ています。 しかし、一般にCM型炭素質隕石の密度は1立方センチ当たり2.8グラムと、 マチルドの密度の2倍以上もあります。 したがって、もしマチルドがCM型炭素質隕石と同様の物質で構成されているとすれば、 その半分は空隙であり、スカスカの構造をしていることを意味します。 今回求められたマチルドの平均密度は、 他の小惑星との衝突を繰り返して細かくこわれた結果、 マチルドが、石をガラガラと積み上げたような空隙の多い 構造をしていることを示しているのかもしれません。

参照 Yeomans,D.K. et al., Science 278,p.2106-2109(1997).
   Veverka,J. et al., Science 278,p.2109-2114(1997).

  1998年1月8日         国立天文台・広報普及室



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