星ナビ天体画像処理コンテスト
 
☆トップ賞発表 テーマ「月2」
星ナビ天体画像処理コンテスト 他のテーマのトップ賞 → 月1 アンタレス付近 M81 M82 NGC55

「月2」のテーマには、8点の応募がありました。最多得票は埼玉県の吉野幸宏さん。難しく奥が深い月面画像処理ですが、あくまでもナチュラルな色調に仕上げた吉野さんの応募作が評価される結果となりました。


 

月2
月2
月2
素材提供/沼澤茂美

素材は星ナビ2003年5月号付録CD-ROMに収録されています。

作品006トップ賞

吉野幸宏さん

投票結果を見る

【使用ソフトウェア】 AdobePhotoshop7.0

【主な処理】

 まず3つの画像を同一ファイルのレイヤーにペーストし、重複部分で位置合わせをします。今回は回転ずれはないようです。歪曲収差による像のずれもほとんどありません。3つの画像のうち、中央の画像が解像度が悪いため、南と北の画像 をなるべく多く残すことにしました。続いて、モザイク合成のつなぎ目の輝度と色調をそろえるため、各コマについてトーンカーブ調整を行います。データ上は露出時間は同じはずなのですが、JPEG圧縮の関係か、北側のコマが最も明るく輝度の乗りが良いため、これを基準として他の2コマをトーンカーブ調整します。全体を1回で調整することは困難なため、部分部分で範囲指定をして丁寧に合わせてゆきます。更につなぎ目を滑らかにするため、境界をぼかしてカット合成します。今回はパッチを当てる必要がないくらいうまくつなぐことができました。

 次にCCDのゴミと傷を修正します。スタンプツールで丁寧に消してゆきますが、後の強力な輪郭強調処理によって一旦は消えたかに見えた傷が再び現れてくるため、修正は極力必要最小限の範囲にとどめておかないと傷口がどんどん広がってしまいます。3つのレイヤーを統合すればモザイク合成の完了です。ここで重要なのは、画像の欠落部分を透明にしておくことです。さもないと欠落部分の境界にアンシャープマスクの輪郭強調が掛かってしまいます。レイヤーを統合したら色と輝度の調子をトーンカーブで調整します。このとき輝度に飽和部分が生じないように注意します。最終画像の彩度・色相はこの画像から取得します。

 次に、アンシャープマスクを掛けて画像の解像度を上げてゆきます。グレースケールに変換してアンシャープマスクを強力に掛けます。ぼかし量を決めると、画像に輝度の飽和が生じない(あるいはごくわずかしか生じない)という制約条件により、最大の適用量が決まります(しきい値はいずれも0)。ぼかし量が大きいと画像がぼけ、小さいとノイズが卓越して画像が荒れますから、画像の解像度が最大となる最適なぼかし量と適用量の組み合わせが決定できます。適用量が500%でも不足する場合は、アンシャープマスクを2度掛けします。ただし最適といっても、1つの組み合わせだけでは、階調が乏しく、ノイズも目立つため、最適ぼかし量の前後数段階についてアンシャープマスク画像を作成し、コンポジットしてやります。ぼかし量の上限は、像を重ねても像がボケない事を基準とし、下限はノイズによって解像度が悪化しない事が基準となります。こうして第一段階のアンシャープマスク画像が出来上がります。

 当然のごとく、コンポジットしてもノイズは強調されるため、スポットノイズは中間値フィルターで、全体的な粒子の荒れは『輪郭以外をぼかす』コマンドを使ってそれぞれ平滑化します。更に月2ではJPEG圧縮の影響か、シャドー部に盛大なスポットノイズが土砂降りの雨のごとく生じました。これは中間値フィルターを軽くかけたぐらいでは消えないため、自動選択ツールでシャドー部のみを抜き出してガウスぼかしをかけて消去しました。ガウスぼかしでも消えないごくわずかなノイズはブラシツールで塗りつぶしておきます。画像が平滑化されたことによって、更にもう1段階アンシャープマスクを掛けられるようになります(特にぼかし量が小さい条件において)ので、先の作業を解像度の向上とノイズの目立ち具合を見ながら何回か繰り返します。今回も月1と同様に3回行いました。

 最後に調子を微調整して輝度画像の完成です。前述の色画像の上のレイヤーにペーストしたら描画モードを『輝度』にし、色調をトーンカーブで微調整したら最終画像の完成です。

 

【処理の感想、コメント】

 月1と反対に元画像を見て「こいつはいけるかな」と思いましたが、結局、月1と同じくらい煩雑な作業となりました。完成画像は月1より見かけはずっと自然ですが、やっている処理はほとんど同じです(したがって、拡大してみるとあらが目立ちます)。ただし、ノイズレベルはこちらのほうがずっと上で、やはりTIFFとJPEGの違いなのでしょうか。

 アンシャープマスクを限界まで掛けると、あたかも画像復元処理を施したような解像度の改善が見られるということを、今回はじめて実感しました。しかも画像復元でフラット部に生じるちりめん状のノイズはほとんど生じません。しかし、処理パラメータの設定は、自由度が大きすぎて、今回も5,6回はやり直しています。色については今回はほぼ満足していますが、撮影時の設定が3コマ同じはずなのに、オートホワイトバランスが各コマでごくわずか異なる処理をするせいか、色調が微妙に異なっていてそろえるのに苦労しました。


星ナビ天体画像処理コンテスト


星ナビ.com